野いちご源氏物語 二九 行幸(みゆき)

ちょうどよい機会だったはずだけれど、源氏(げんじ)(きみ)若君(わかぎみ)雲居(くもい)(かり)のご結婚のことはおっしゃらなかったの。
やはり、幼いおふたりを突然引き離された、内大臣(ないだいじん)様の最初のご態度がひっかかっていらっしゃる。
お互いに自分から切り出すことはしたくないと思っておいでだから、話はまったく進まない。

六条(ろくじょう)(いん)までお送りすべきですが、突然参りましてもご迷惑と存じますから、また改めてお礼に(うかが)います」
「では、大宮(おおみや)様のお具合も悪くはなくお見受けいたしますから、必ず姫君(ひめぎみ)裳着(もぎ)儀式(ぎしき)にお越しください」
そうお約束なさると、おふたりとも満足そうにお帰りになる。
「何がおありになったのだろう。めずらしくお会いになって(じょう)機嫌(きげん)でお別れになったのだから、政治上のよいお話でもあったのだろうか」
内大臣様のご子息(しそく)たちは勘違いして話していらっしゃる。
まさか新しい姉君(あねぎみ)の話とはお思いにならない。