野いちご源氏物語 二九 行幸(みゆき)

源氏(げんじ)(きみ)内大臣(ないだいじん)様はひさしぶりにお会いになった。
お互いに昔のことを思い出して、じんわりとご友情を取り戻される。
積もる話をなさるうちに日が暮れていく。
お酒をお(すす)めになりながら内大臣様がおっしゃった。
「こちらにお越しになっていると(うかが)いまして、参るべきか、いやお召しもないのに失礼かと悩んだのですが、もし参りませんでしたらお(しか)りを受けたことと存じます」
「いやいや、私の方こそお叱りを受けそうなことがたくさんあります」

<やはり若君(わかぎみ)と姫の件か>
内大臣様は思い当たるところがあるけれど、こちらから言い出しては不利になりそうで、恐縮(きょうしゅく)したふりをしてかしこまっていらっしゃる。

源氏の君はまだ本題に入られない。
「昔からあなたとは仕事のことでも個人的なことでも本音で話し合ってきましたね。近ごろは息子のことなどでうまく行かないことも出てまいりましたけれど、それはほんのささいな問題に過ぎません。私は今もあなたを大切な友人だと思っています。だんだん年を取るにつれて昔のことが恋しくなるのです。しかし、めったにこうしてお話しすることもできなくなってしまってもどかしい。私とあなたの仲なのですから、お気軽に訪ねてきてくださればよいのにと思ったことも何度もありました」

若気(わかげ)(いた)りで図々しくももったいないほど仲良くしていただきました。私などたいした才能はありませんから、あなた様のおかげでなんとか内裏(だいり)(づと)めができているのでございます。たまにはご機嫌(きげん)(うかが)いに上がって感謝の気持ちをお見せしなければと思いつつ、年を取って何かと動きが(にぶ)くなり、ご無沙汰(ぶさた)してしまいました」
あくまでもかしこまって内大臣様はお答えになる。