野いちご源氏物語 二九 行幸(みゆき)

内大臣(ないだいじん)様は源氏(げんじ)(きみ)大宮(おおみや)様をお訪ねになったことを家来からお聞きになった。
驚いておっしゃる。
人手(ひとで)がまったく足りないだろう。どうやって源氏の君のお行列(ぎょうれつ)をお迎えしたのだ。お(とも)接待(せったい)をする家来も、客席を整える女房(にょうぼう)もいなくて、大宮様は困っておられるのではないか。いつもなら若君(わかぎみ)が何かと指図(さしず)してくださるだろうが、今日は源氏の君のお供をして、お客側としていらっしゃっているのだから」
急いでご子息(しそく)たちをお手伝いとして送り出そうとなさる。

「果物やお酒でご接待せよ。私も参るべきところだが、かえって騒ぎが大きくなってしまうだろうから遠慮させていただく」
そうおっしゃっているところに、大宮様からお手紙が届いたの。
「源氏の君がお越しになっています。接待にあたる人も少なくて困っておりますから、さりげなくあなたも来てくださいませんか。源氏の君は、あなたに直接お話しなさりたいことがおありのようです」

何事(なにごと)だろうか。姫と若君のことだろうか。()(さき)短い母君(ははぎみ)と源氏の君にふたりの結婚を許すよう言われたら、お断りすることなどできない。平気なふりをなさっている若君にこれ以上やきもきさせられるのも嫌だから、この機会に母君と源氏の君のお顔を立てた形で許してしまうのもよいかもしれない。
それにしても、おふたりが協力して姫と若君の結婚を進めようとなさるとは。強いご意思を感じるが、しかし必ずしも思いどおりに振舞ってさしあげる必要はないはずだ>
こんなときでも源氏の君への()けん()()()がっていらっしゃる。

<それはさておき、母君がこのようなお手紙をお寄越(よこ)しになって、源氏の君も私に会いたいとおっしゃっているなら、おふたりをお待たせするわけにはいかない。とにかくお目にかかって、話はそれからだ>
念入りに身支度(みじたく)なさってから、お供はおおげさにせず、ご子息たちを連れてご出発なさった。