野いちご源氏物語 二八 野分(のわき)

春の御殿(ごてん)と秋の御殿(ごてん)をつなぐ渡り廊下を通って、若君(わかぎみ)はご伝言(でんごん)をお届けになる。
早朝の日を浴びてお美しい。
秋の御殿の(はし)から中宮(ちゅうぐう)様のお部屋のあたりを見ると、()(えん)に若い女房(にょうぼう)がたくさん出ている。
近づいて見たらどうか分からないけれど、朝ぼらけに遠くから見る分にはそれぞれ美しい。
女童(めのわらわ)たちがお庭に下りて、虫かごの虫に(つゆ)を与えているらしいの。
立ちこめる(きり)のなかにかわいらしい姿がちらほら見えるわ。

お部屋の方からよい香りが(ただよ)ってくる。
中宮様の品の良さが伝わってきて、若君は少し遠慮しながらも(せき)(ばら)いをして歩いていかれる。
女房たちは大慌てするでもなく、そっと静かにお部屋の中へ入っていく。
元服(げんぷく)なさる前、若君は中宮様のお部屋に入れていただくこともあったの。
だから、ご存じの女房たちも何人かいる。
源氏(げんじ)(きみ)からのご伝言をお伝えになったあとは、その女房たちと小声で何か話していらっしゃったわ。

()(だか)くお暮らしになっている中宮様のご気配(けはい)を感じるにつけても、若君は(むらさき)(うえ)のことを思い出してしまわれる。