野いちご源氏物語 二八 野分(のわき)

源氏(げんじ)(きみ)はご自分で窓を開けてお顔をお出しになった。
若君(わかぎみ)は気まずくて、少し後ろに下がってかしこまる。
「どうだった。昨夜は大宮(おおみや)様がお待ちかねでよろこばれたのではないか」
「はい、ちょっとしたことでも涙もろくなっていらっしゃいますのがお気の毒でございました」
源氏の君はご同情しておっしゃる。
「もう長くはあられないだろう。親切にお仕えしてさしあげなさい。内大臣(ないだいじん)のことを、あまり気のつく息子ではないとおっしゃっていた。あの方は華やかで男性的なご性格だから、世間に見えるところでは大げさな(おや)孝行(こうこう)をなさるけれど、日々(こま)やかな()(づか)いをなさる方ではないからね。立派な政治家であっても、人間として欠点がない人は少ないものだよ」

それから、中宮様のことをおっしゃる。
「ところで中宮(ちゅうぐう)様はどうしておられるだろう。昨夜は秋の御殿(ごてん)に頼りになる役人たちが控えていたのだろうか」
ご心配なさって、若君にご伝言(でんごん)をお預けになる。
「ひどい風音(かざおと)でしたが、どのようにお聞きになりましたか」