野いちご源氏物語 二八 野分(のわき)

若君(わかぎみ)大宮(おおみや)様のお屋敷にお泊まりになる。
激しい風の音を一晩中聞きながら、ぼんやりとなさっている。
まぶたに浮かぶのは雲居(くもい)(かり)ではいらっしゃらない。
(むらさき)(うえ)のお美しいお顔なの。

<いや、いけない。父君(ちちぎみ)女君(おんなぎみ)に恋をするなんてあってはならないことだ。恐ろしい>
しいて他のことを考えようとなさるけれど、そのたびに思い出してしまわれる。
<人生で二度と拝見できないような美しい方だった。父君にはあれほどの方がいらっしゃるのに、どうして養母君(ははぎみ)のこともそれほど(おと)らずお(あつか)いになるのだろう。比べるまでもないような方なのに、おかわいそうな気さえする>
若君にはまだ、花散里(はなちるさと)(きみ)の長所がお分かりにならないみたいね。
<父君はお優しい方だ>とお思いになっていた。

もちろん紫の上を手に入れたいだなんて大それたことはお考えにならない。
ただ、
<どうせならああいう美人を妻にして暮らしたいものだ。寿命(じゅみょう)もきっと()びるだろう>
と思っていらっしゃる。