野いちご源氏物語 二八 野分(のわき)

家来たちがやって来て源氏(げんじ)(きみ)にご報告する。
「風はさらにひどくなりそうでございます。北東(ほくとう)からの風ですので、こちらの春の御殿(ごてん)はよろしゅうございますが、夏の御殿の馬場(うまば)の建物や釣殿(つりどの)が危険かと存じます」
そう申し上げると、被害を()()めるための対策に走っていく。

源氏の君は若君(わかぎみ)にお尋ねになる。
「そなたはどこに行っていたのだ」
大宮(おおみや)様のお屋敷におりました。台風が来そうだと耳にしまして、一旦(いったん)こちらに戻ってまいったのです。大宮様は本当にお心細そうで、風の音を幼子(おさなご)のように怖がっていらっしゃいました。お気の毒ですから、今からもう一度あちらへ参ります」
「それがよい。すぐに上がりなさい。年老いた人がこういうときに幼子のようになってしまわれるのは、めずらしいことではない」
源氏の君はご同情なさって、
「落ち着かない天候(てんこう)でございますので、私の代わりに息子を参らせます」
とご伝言(でんごん)なさった。