明石の姫君が紫の上のお部屋から戻っていらっしゃる。
女房たちはいそいでお部屋を整える。
<紫の上や玉葛の姫君のお顔と比べてどうだろう>
と若君は気になって、いつもはわざわざ拝見しようと思わない姫君のお姿を覗いてごらんになった。
女房たちが行ったり来たりしているのではっきりとはしないけれど、薄紫色のお着物が見える。
まだ八歳でいらっしゃるから、お髪は伸びきっていない。
華奢な体つきがおかわいらしいの。
<私がまだ元服して間もない一昨年くらいまでは、お人形遊びなどにお付き合いして、たまにお顔を拝見することもあったのだけれど。それから一段とかわいらしくご成長なさったな。ご結婚なさるころにはどれほどお美しくなっておられることだろう。
紫の上が桜、玉葛の姫君が山吹なら、この姫君は藤の花でいらっしゃる。高い木に蔓をまつわらせて咲いた藤が、風に揺れているような美人だ。こういう人たちをいつでも拝見して暮らせたらよいのに。紫の上はともかく、姉や妹である姫君おふたりに対してはそうさせていただいてもよいだろうに、父君はお厳しい>
真面目な方でいらっしゃるのに、なんとなく物足りないような気がなさる。
女房たちはいそいでお部屋を整える。
<紫の上や玉葛の姫君のお顔と比べてどうだろう>
と若君は気になって、いつもはわざわざ拝見しようと思わない姫君のお姿を覗いてごらんになった。
女房たちが行ったり来たりしているのではっきりとはしないけれど、薄紫色のお着物が見える。
まだ八歳でいらっしゃるから、お髪は伸びきっていない。
華奢な体つきがおかわいらしいの。
<私がまだ元服して間もない一昨年くらいまでは、お人形遊びなどにお付き合いして、たまにお顔を拝見することもあったのだけれど。それから一段とかわいらしくご成長なさったな。ご結婚なさるころにはどれほどお美しくなっておられることだろう。
紫の上が桜、玉葛の姫君が山吹なら、この姫君は藤の花でいらっしゃる。高い木に蔓をまつわらせて咲いた藤が、風に揺れているような美人だ。こういう人たちをいつでも拝見して暮らせたらよいのに。紫の上はともかく、姉や妹である姫君おふたりに対してはそうさせていただいてもよいだろうに、父君はお厳しい>
真面目な方でいらっしゃるのに、なんとなく物足りないような気がなさる。



