野いちご源氏物語 二八 野分(のわき)

明石(あかし)姫君(ひめぎみ)(むらさき)(うえ)のお部屋から戻っていらっしゃる。
女房(にょうぼう)たちはいそいでお部屋を整える。
<紫の上や玉葛(たまかずら)の姫君のお顔と比べてどうだろう>
若君(わかぎみ)は気になって、いつもはわざわざ拝見しようと思わない姫君のお姿を(のぞ)いてごらんになった。
女房たちが行ったり来たりしているのではっきりとはしないけれど、薄紫色のお着物が見える。
まだ八歳でいらっしゃるから、お(ぐし)は伸びきっていない。
華奢(きゃしゃ)な体つきがおかわいらしいの。

<私がまだ元服(げんぷく)して()もない一昨年(おととし)くらいまでは、お人形遊びなどにお付き合いして、たまにお顔を拝見することもあったのだけれど。それから一段(いちだん)とかわいらしくご成長なさったな。ご結婚なさるころにはどれほどお美しくなっておられることだろう。
紫の上が桜、玉葛の姫君が山吹(やまぶき)なら、この姫君は(ふじ)の花でいらっしゃる。高い木に(つる)をまつわらせて咲いた藤が、風に()れているような美人だ。こういう人たちをいつでも拝見して暮らせたらよいのに。紫の上はともかく、姉や妹である姫君おふたりに対してはそうさせていただいてもよいだろうに、父君(ちちぎみ)はお厳しい>
真面目な方でいらっしゃるのに、なんとなく物足りないような気がなさる。