ご立派な女君たちのところをぐるりと回って、若君は疲れてしまわれた。
<私は私で書きたい見舞いの手紙などもあったのだが、すっかり日も高くなってしまった>
そう思いながらも、春の御殿の明石の姫君のお部屋へお見舞いに行かれる。
源氏の君は紫の上のところに行ってしまわれたみたい。
姫君の乳母が申し訳なさそうに出てきた。
「せっかくお越しいただきましたが、姫君はまだ紫の上のお部屋でお休みになっておられます。なにしろ一晩中風を怖がっていらっしゃいましたので、朝になってもお起きになれませんで」
「ひどい風でしたからね。おそばについていてさしあげたかったけれど、祖母君の大宮様がたいそうお心細そうだったので、そちらに上がっていたのです。こちらのことも心配していたのですよ。姫君のお人形の御殿はご無事ですか」
若君のご冗談に女房たちは笑って、
「扇の風にさえ姫君は大騒ぎなさるのに、とんでもない台風でございましたもの。お守りするのに苦労いたしました」
とお答えする。
「ところで、ちょっとした紙をいただけませんか。それと普段使い用の硯も」
若君のお願いに、女房は姫君の紙と硯をお出しした。
「いえ、このような立派なものでなくとも」
と思わず恐縮なさってから、苦笑なさる。
<母親の身分を考えれば、私が恐縮するほどの妹姫ではないか>
紫色の薄い紙を前に、墨を丁寧にすって、時折筆先を眺めながらじっくり文章を練っていらっしゃる。
雲居の雁宛てのお手紙よ。
そのご様子はすばらしくお美しいのだけれど、お書きになったお手紙は無難すぎてつまらない。
「強い風でしたのでご心配しております。どれほど風がひどくても、私はあなたのことが忘れられなくて」
吹き散らされたすすきのような草をお手紙にお添えになる。
「昔の恋物語の主人公は、紙の色と植物の色をそろえたものでございますけれど」
女房がお教えすると、若君は素直におっしゃる。
「それは思いつきませんでした。どのような花がよいでしょう」
なれなれしくなさらず、女房に対しても控えめに振舞われるのが上品でいらっしゃる。
若君はそれからもう一通お手紙を書くと、お供にお渡しになった。
女房たちはお手紙の内容と宛先がとても気になっていたみたい。
<私は私で書きたい見舞いの手紙などもあったのだが、すっかり日も高くなってしまった>
そう思いながらも、春の御殿の明石の姫君のお部屋へお見舞いに行かれる。
源氏の君は紫の上のところに行ってしまわれたみたい。
姫君の乳母が申し訳なさそうに出てきた。
「せっかくお越しいただきましたが、姫君はまだ紫の上のお部屋でお休みになっておられます。なにしろ一晩中風を怖がっていらっしゃいましたので、朝になってもお起きになれませんで」
「ひどい風でしたからね。おそばについていてさしあげたかったけれど、祖母君の大宮様がたいそうお心細そうだったので、そちらに上がっていたのです。こちらのことも心配していたのですよ。姫君のお人形の御殿はご無事ですか」
若君のご冗談に女房たちは笑って、
「扇の風にさえ姫君は大騒ぎなさるのに、とんでもない台風でございましたもの。お守りするのに苦労いたしました」
とお答えする。
「ところで、ちょっとした紙をいただけませんか。それと普段使い用の硯も」
若君のお願いに、女房は姫君の紙と硯をお出しした。
「いえ、このような立派なものでなくとも」
と思わず恐縮なさってから、苦笑なさる。
<母親の身分を考えれば、私が恐縮するほどの妹姫ではないか>
紫色の薄い紙を前に、墨を丁寧にすって、時折筆先を眺めながらじっくり文章を練っていらっしゃる。
雲居の雁宛てのお手紙よ。
そのご様子はすばらしくお美しいのだけれど、お書きになったお手紙は無難すぎてつまらない。
「強い風でしたのでご心配しております。どれほど風がひどくても、私はあなたのことが忘れられなくて」
吹き散らされたすすきのような草をお手紙にお添えになる。
「昔の恋物語の主人公は、紙の色と植物の色をそろえたものでございますけれど」
女房がお教えすると、若君は素直におっしゃる。
「それは思いつきませんでした。どのような花がよいでしょう」
なれなれしくなさらず、女房に対しても控えめに振舞われるのが上品でいらっしゃる。
若君はそれからもう一通お手紙を書くと、お供にお渡しになった。
女房たちはお手紙の内容と宛先がとても気になっていたみたい。



