野いちご源氏物語 二八 野分(のわき)

さらにそこから、同じ夏の御殿(ごてん)花散里(はなちるさと)(きみ)をお見舞いに行かれる。
今朝、急に(はだ)(さむ)くなったからか、女房(にょうぼう)たちとお裁縫(さいほう)をなさっているところだった。
冬物(ふゆもの)のお着物を仕立てていらっしゃるの。
花散里の君のお手元にも美しい布地が広がっている。

中将(ちゅうじょう)の着物ですか。もうすぐ行われる内裏(だいり)での(うたげ)によさそうですが、この台風で中止になってしまうでしょうね。秋草(あきくさ)(なが)める宴など今年はできそうにない。つまらない秋だ」
残念そうにため息をついて、さまざまな色に染められた布をご覧になる。
<染め方の指示がお上手なのだろう。こういう点では(むらさき)(うえ)にも(おと)らない方でいらっしゃる>
源氏(げんじ)(きみ)のために、花を染料(せんりょう)にして染められた布もあった。
よい色が出ている。
「これは中将の着物に仕立ててやってください。私よりも若い人の方が似合うだろうから」
そんなことだけをお話しになって春の御殿へお帰りになった。