若君はこちらにもお供してきていらっしゃる。
お部屋の外でお待ちになっているのだけれど、源氏の君はずいぶんと話しこんでおられるの。
<姉君はどのような方なのだろう。少しお顔を拝見してみたい>
と以前から思っていたから、こっそりついたてをずらしてお部屋を覗いてごらんになった。
お部屋のなかのついたては台風騒ぎで片付けてあるから、よく見通せてしまう。
若君は驚かれた。
源氏の君が姫君に寄り添って、何か冗談をおっしゃっている。
<これはなんということだ。いくら親子でも幼子ではないのだから、あのようにお腕に抱きしめてお話しになるのはおかしい>
こちらに気づかれることを恐れながらも、目が離せずにいらっしゃる。
目を逸らしておいでの姫君を、源氏の君が「こちらを向いて」とばかりにお引き寄せになった。
すると姫君のお髪がお顔にはらはらとこぼれかかる。
姫君は心苦しそうではあるけれど、拒否することもなく源氏の君に寄りかかりなさる。
男女の関係になっていらっしゃるように若君には見える。
<あぁ、嫌だ。どういうことなのだ。父君は恋多き方だから、お小さいころからお育てになっていなければ、娘であっても恋の対象にしてしまわれるのだろうか。それも無理のないことかもしれないが、いや、そんなことはない。あれはいけない>
常識人でいらっしゃる若君は、考えるだけでもぞっとなさる。
<しかしお美しい人だ。昨日拝見してしまった紫の上ほどの圧倒的な美人ではいらっしゃらないけれど、見ていて幸せを感じるという点では同じくらいかもしれない。満開の山吹のように華やかな人だ>
山吹は春の花だから季節が合わないけれど、ついそんなことをお思いになる。
女房たちの出入りもない。
ふたりきりでひそひそと話していらっしゃったけれど、どうなさったのかしら、ふいっと源氏の君がお立ちになった。
姫君がおつらそうにおっしゃる。
「花が台風で折れて命を失ったように、あなた様の厄介なお気持ちで私も死んでしまいそうな気がいたします」
まもなく源氏の君が出ていらっしゃいそうなので、若君は離れたところでお待ちになる。
「なびかないからですよ。女竹をご覧なさい。強い風が吹いてもなびいてしなるから、折れていないでしょう。あれを見習ってあなたも私になびかれたらよろしいのです」
そういうような源氏の君のお返事が聞こえた気がするけれど、私の聞き間違いかしら。
なかなかとんでもないやりとりだこと。
お部屋の外でお待ちになっているのだけれど、源氏の君はずいぶんと話しこんでおられるの。
<姉君はどのような方なのだろう。少しお顔を拝見してみたい>
と以前から思っていたから、こっそりついたてをずらしてお部屋を覗いてごらんになった。
お部屋のなかのついたては台風騒ぎで片付けてあるから、よく見通せてしまう。
若君は驚かれた。
源氏の君が姫君に寄り添って、何か冗談をおっしゃっている。
<これはなんということだ。いくら親子でも幼子ではないのだから、あのようにお腕に抱きしめてお話しになるのはおかしい>
こちらに気づかれることを恐れながらも、目が離せずにいらっしゃる。
目を逸らしておいでの姫君を、源氏の君が「こちらを向いて」とばかりにお引き寄せになった。
すると姫君のお髪がお顔にはらはらとこぼれかかる。
姫君は心苦しそうではあるけれど、拒否することもなく源氏の君に寄りかかりなさる。
男女の関係になっていらっしゃるように若君には見える。
<あぁ、嫌だ。どういうことなのだ。父君は恋多き方だから、お小さいころからお育てになっていなければ、娘であっても恋の対象にしてしまわれるのだろうか。それも無理のないことかもしれないが、いや、そんなことはない。あれはいけない>
常識人でいらっしゃる若君は、考えるだけでもぞっとなさる。
<しかしお美しい人だ。昨日拝見してしまった紫の上ほどの圧倒的な美人ではいらっしゃらないけれど、見ていて幸せを感じるという点では同じくらいかもしれない。満開の山吹のように華やかな人だ>
山吹は春の花だから季節が合わないけれど、ついそんなことをお思いになる。
女房たちの出入りもない。
ふたりきりでひそひそと話していらっしゃったけれど、どうなさったのかしら、ふいっと源氏の君がお立ちになった。
姫君がおつらそうにおっしゃる。
「花が台風で折れて命を失ったように、あなた様の厄介なお気持ちで私も死んでしまいそうな気がいたします」
まもなく源氏の君が出ていらっしゃいそうなので、若君は離れたところでお待ちになる。
「なびかないからですよ。女竹をご覧なさい。強い風が吹いてもなびいてしなるから、折れていないでしょう。あれを見習ってあなたも私になびかれたらよろしいのです」
そういうような源氏の君のお返事が聞こえた気がするけれど、私の聞き間違いかしら。
なかなかとんでもないやりとりだこと。



