野いちご源氏物語 二八 野分(のわき)

中宮(ちゅうぐう)様の秋の御殿(ごてん)から渡り廊下で北へ向かうと、明石(あかし)(きみ)のお住まいにつながっている。
源氏(げんじ)(きみ)がそちらをご覧になっても、頼りになりそうな家来が働いている様子はない。
かわいらしい女童(めのわらわ)たちが乱れた花壇(かだん)の手入れをしている。
物寂しい気のする明石の君は、縁側(えんがわ)に出てなんとなく(そう)を弾いていらっしゃった。

源氏の君の家来がお越しを伝えると、いそいできちんとしたお着物をお羽織(はお)りになる。
ご自分はくつろいだ格好を源氏の君にお見せできる身分ではないとお思いなのね。
ほんの少し台風のお見舞いを伝えただけでお帰りになってしまう源氏の君に、女君(おんなぎみ)はつらくなってしまわれる。
「まるで(おぎ)()らして()(どお)りしていく風のよう」
と、去っていかれる後ろ姿に独り言をおっしゃった。