中宮(ちゅうぐう)様の秋の御殿(ごてん)には秋の花がさまざまに植えられている。
もともとは六条御息所(ろくじょうのみやすんどころ)のお屋敷で、そのころから立派なお庭だったけれど、今年はいつも以上に見どころが多い。
広々とした秋の野原の風景は涼しげでおもしろく、心が浮き立つの。
あんなに美しかった春の町のお庭のことを忘れてしまうほどよ。

「春と秋のどちらがよいか」という論争(ろんそう)は、日本では昔から秋派が多い。
一時(いちじ)は春の町のお庭に()かれて心変わりした人もいたけれど、そういう人たちがまた秋派に戻ってきている。
何かと手のひら返しをする世間にそっくり。

中宮様はお庭が見たくて(さと)()がりなさっていた。
音楽会などもよさそうな季節だけれど、父宮(ちちみや)のご命月(めいげつ)だから遠慮なさる。
そうしていらっしゃる間に、お庭はますます美しくなっていく。
ただ、その年は台風が激しかったの。
濃い灰色の雲がたちこめて、風が強く吹いた。

()(くる)う風に、すばらしく咲いていた花が散ったり折れたりする。
中宮様はお胸を痛めていらっしゃる。
「桜が散らないようにお庭を(おお)う巨大な(まく)がほしい」と昔の人は言ったけれど、むしろ秋にこそほしいと思うような野分(のわき)の強風よ。
ひどくなっていく一方なので、女房(にょうぼう)たちは窓を閉めてしまう。
中宮様はお花に同情して(なげ)いていらっしゃる。