野いちご源氏物語 二四 胡蝶(こちょう)

お昼からは秋の御殿(ごてん)中宮(ちゅうぐう)様が仏教(ぶっきょう)の行事をなさることになっている。
昨日の春の御殿での宴会(えんかい)に参加した方たちは、少し休憩や着替えをなさって、そのまま秋の御殿の方に向かわれた。
源氏(げんじ)(きみ)をはじめ、上級貴族の方たちもこぞって参列なさる。
中宮様が行う行事とはいえ、これだけ立派な参列者がそろったのは、やはり源氏の君が中宮様の後見(こうけん)をなさっているおかげでしょうね。

(むらさき)(うえ)(ほとけ)様にお花をお(そな)えなさる。
といっても、ただお届けするだけではないわ。
かわいらしい女童(めのわらわ)たち八人を二つの組に分けて、鳥の(がら)の着物と(ちょう)の柄の着物をお着せになった。
鳥の着物の子には銀色の(かめ)に桜の枝、蝶の着物の子には金色の瓶に山吹(やまぶき)の枝を()してお持たせになる。

女童たちは、お池の舟で春の町から秋の町へ移動する。
(かすみ)の中から舟が現れた。
秋の御殿にいらっしゃる方たちがお気づきになったとき、さぁっと風が吹いて桜の花が少し散った。
女童たちは舟から降りると、建物の近くまで歩いていく。
(とり)()ぎの貴族が受け取って、仏様へのお(そな)(もの)に加えた。

紫の上からのお手紙は、源氏の君の若君(わかぎみ)がお届けになった。
「秋のお庭では松虫(まつむし)が秋を待ちどおしく思っていることでしょう。こちらの蝶などがひらひらと飛んでいってはお()(ざわ)りでしょうか」
とある。
<去年の秋に、私が得意気(とくいげ)に書いたお手紙へのお返しだ>
と、中宮様はほほえんでご覧になる。

昨日(ふな)(あそ)びを楽しんだ女房(にょうぼう)たちも、
「たしかに春のことを悪くは言えないようなお庭でしたね」
と話しあう。
紫の上から見事なお土産(みやげ)までいただいて帰ってきたので、すっかり春びいきになっているのね。

仏教(ぶっきょう)行事用の音楽の演奏がはじまった。
鳥組の女童たちが鳥の(まい)を、蝶組の女童たちは蝶の(まい)披露(ひろう)する。
舞いおわると、中宮様は女童たちにご褒美(ほうび)をお与えになったわ。
鳥組は桜色のお着物、蝶組は山吹色のお着物をいただいた。
あらかじめ打ち合わせしてあったかのような完璧なやりとりだった。
若君もご褒美をいただき、紫の上へのお返事をお預かりした。
「昨日のにぎやかなご様子がうらやましゅうございました。私も蝶に(さそ)われてそちらへ(うかが)いとう存じます」
とある。

中宮様は(さと)()がりなさっている間、こういう楽しい(もよお)(ごと)頻繁(ひんぱん)になさるので、女房たちも機嫌(きげん)よくお仕えしている。
紫の上ともお手紙のやりとりをして、仲良くなさっているの。