野いちご源氏物語 二四 胡蝶(こちょう)

(なげ)きながらお帰りになろうとすると、お庭の青々(あおあお)とした竹がお目に()まった。
(ささ)が涼しげに風になびいている。
源氏(げんじ)(きみ)はお部屋の方に少しお戻りになって、
「我が家の竹と思っていても、いずれ出ていってしまわれるのでしょうね。(うら)めしいことだ」
姫君(ひめぎみ)にお声をおかけになる。

「私はこちらのお屋敷の竹でございます。今さら本当の父君(ちちぎみ)のお屋敷に移りたいとは思っておりません」
源氏の君は姫君のご結婚のことをおっしゃったのだけれど、姫君はさりげなくかわしてしまわれた。
それでも満足してお帰りになる。

ああはおっしゃったけれど、やはり姫君は本当の父君に会いたくていらっしゃる。
<源氏の君は、いつ私のことを父君にお話ししてくださるおつもりなのだろう。しかし父君と申し上げても、幼いころからお会いしていないのだから、きっとこれほどまでにご親切にはしていただけない>
物語などに登場する意地悪な養父(ようふ)とはかけ離れた源氏の君のご厚意(こうい)だもの。
姫君はありがたくも申し訳なくもお思いになって、「本当の父君にお会いしたい」なんておっしゃれないの。