野いちご源氏物語 二四 胡蝶(こちょう)

「こんなふうに恋愛のことまで口をはさんではご不快(ふかい)かもしれませんね。しかし、父君(ちちぎみ)内大臣(ないだいじん)にいつお知らせしたらよいかという問題にかかわってくることなのです。独身の不安定な状態のまま、内大臣(ないだいじん)()のたくさんのお子たちのなかにお入りになるのは、かえってご苦労が多いのではないかと心配です。むしろ、どなたかとご結婚なさって、人妻(ひとづま)という立場に落ち着かれてからの方が、さりげなく父君ともご対面できましょう。

ただし、お相手選びはなかなか難しいのです。兵部卿(ひょうぶきょう)(みや)様はご正妻(せいさい)を亡くされて独身ですが、恋人はあちこちにいらっしゃるし、お屋敷の女房(にょうぼう)たちにまでお手をつけていらっしゃる。そういうことを大目(おおめ)に見られる女性ならうまく行くでしょうが、嫉妬(しっと)深ければ関係は駄目(だめ)になってしまうでしょう。
右大将(うだいしょう)は、長年連れ添った年上のご正妻に嫌気(いやけ)がさしたようですね。それで新しく若い妻を探しているのです。しかしこれはご正妻やその親族が(だま)ってはいないでしょう。そういうわけですから、私もはっきりとは決められずにいます。

結婚についてのご希望など実の親にも言いにくいことだとは思いますが、少女というお年でもいらっしゃらないのですから、ご自分でもよくお考えになってみてください。私を亡き母君(ははぎみ)だと思って、相談(そうだん)(ごと)本音(ほんね)もおっしゃってください。あなたのご意思と違うようにはしたくないのです」

実の父君でもここまで親切にはなさらないだろうというほど優しくおっしゃるから、姫君は心苦しくて何もおっしゃることができない。
でも、黙っているのも子どもっぽくてよくないとお思いになって、おっとりとおっしゃる。
「幼いころに両親と別れましたから、親に相談するということに慣れておりませんで」
源氏の君はおうなずきになって、
「私のことを本当の親とお思いくだればよろしいのです。あなたへの誠意(せいい)を見届けてください」
とおっしゃる。

本当はもっと正直に恋心をお伝えになりたい。
でもさすがに恥ずかしくてためらっていらっしゃる。
それらしいことをほのめかしもなさるけれど、姫君はお気づきにならない。