野いちご源氏物語 二四 胡蝶(こちょう)

源氏(げんじ)(きみ)右近(うこん)をお呼びになった。
右近は長年(むらさき)(うえ)にお仕えしていたけれど、玉葛(たまかずら)姫君(ひめぎみ)六条(ろくじょう)(いん)に迎えられてからは、姫君にお仕えしているの。

「たくさんお手紙が来ているようだが、そなたが相手を厳選(げんせん)して、お返事をお書きになるよう申し上げなさい。今どきの好色(こうしょく)な若者は平気で不届(ふとど)きなことをするが、それはすべて男のせいとも言えない。ちょっとした手紙に必要以上に反応して優しい返事をすれば、男はその気になってしまうものだから。
女性が(わけ)知り顔に思ったことすべてを書くのは危険だ。いっそ返事をしない方が、男はより熱心に心をつかもうとしてくることだってある。もちろんそこで終わってしまうこともあるけれど、その場合は(えん)がなかったということだろう。
とはいえ、兵部卿(ひょうぶきょう)(みや)様と右大将(うだいしょう)はさすがに真剣なお気持ちだろうから、雰囲気を壊さないようなお返事をするべきだ。その他の相手は、どれほど真剣なのかきちんと()(きわ)めてからお返事するように」

玉葛の姫君は恥ずかしくて目をそらしていらっしゃる。
現代風の色合いのお着物がよくお似合いよ。
六条の院にお移りになる前は、やはり田舎(いなか)びたところが少しおありだったけれど、こちらで女君(おんなぎみ)たちと交流されるうちにすっかり都会的におなりになった。
もともとおっとりとしたご性格で、洗練(せんれん)されたお化粧などをなさると、(もう)(ぶん)なく華やかでお美しい姫君なの。

<他の男と結婚させてしまうのは()しい>
と源氏の君はお思いになる。
右近も、
<父親というにはお若すぎる。こうして並んでいらっしゃるとご夫婦のようだ>
とおふたりを拝見していた。

「お手紙はほとんどお断りしております。さすがに恐れ多いご身分の方からのお手紙は受け取らないわけにもいかず、それが先ほどご覧になったものなのです。そういう方たちのお手紙でも、姫君がお返事をお書きになるのは、源氏の君がお(すす)めになったときだけでございます。それさえ乗り気ではいらっしゃいません」
右近がそう言うと、源氏の君は水色の(むす)(ぶみ)をお手に取られる。
「ではこれは誰からなのだ。まだ若い男だろうが、よく書けている」
とほほえんでお尋ねになるの。

「それは内大臣(ないだいじん)様のご子息(しそく)からでございます。こちらにご存じの女童(めのわらわ)がおりますようで、その子が受け取ってしまったのです。本来ならお断りすべき方でいらっしゃいますが」
右近は送り主が姫君の弟君(おとうとぎみ)だと知っているし、ご身分からしても受け取るべき相手ではないと思っている。
「かわいらしいな。たしかにまだ身分は低いが、あの人は見下してよい相手ではない。そこらの上級貴族には負けない才能も魅力(みりょく)もある人だ。将来出世しそうな若者たちのなかでもっとも落ち着きがある。こちらの姫君と姉弟(きょうだい)だということは、いつか自然に知るときが来るだろう。それまではさりげないお返事でうまくごまかしておきなさい。それにしても見どころのある手紙だ」

内大臣様は、源氏の君の亡きご正妻(せいさい)兄君(あにぎみ)でいらっしゃるから、ご子息は源氏の君の(おい)にあたられる。
幼いころからご存じの甥君(おいぎみ)が、立派な恋文を書くほどご成長なさったことを、源氏の君はほほえましくお思いなのでしょうね。
じっとご覧になっていたわ。