野いちご源氏物語 二三 初音(はつね)

夜明け前に源氏(げんじ)(きみ)は春の御殿(ごてん)にお戻りになった。
<ずいぶん早くお帰りになられる>
明石(あかし)(きみ)は残念にお思いになる。

<怒っていらっしゃるだろうな>
と源氏の君は覚悟して、ご寝室にお入りになると同時に言い訳をなさる。
「うっかりうたた寝をしたら、誰も起こしてくれなかったのです。若者のように眠りこけてしまった」
(むらさき)(うえ)はほんの少し何かおっしゃっただけで、あとはお返事なさらない。
気づまりになった源氏の君は寝たふりをなさって、日が高くなってからお起きになった。