つづいて源氏(げんじ)(きみ)は夏の御殿(ごてん)へ向かわれる。
夏に美しい植物を集めたお庭だから、今はまだ見どころがない。
静かで、ごてごてと飾りたてない室内はとても上品だった。
花散里(はなちるさと)(きみ)と源氏の君は、年月が()つにつれて、恋人ではなく同士(どうし)の関係になっていかれる。
お互いに信頼していらっしゃって、これはこれでよいご関係よ。

間のついたてを源氏の君は少しお動かしになる。
女君(おんなぎみ)は恥ずかしがることもなく、おっとりと座ったままでおられる。
源氏の君がお贈りになった()()は薄い青色で、やはり地味な雰囲気なの。
(ぐし)も少なくなっていらっしゃる。

()()で見た目をお整えになったらよいのに。私以外の男なら、こんな姿の恋人は捨ててしまうだろう。そういう方をあえて世話してさしあげるのが私の生きがいなのだ。それに(ひび)きあうように、この人は素直に私の考えに従ってくれる。軽率(けいそつ)で勝手なことをする人だったら、とても長く一緒にはいられなかっただろう>
源氏の君は花散里の君にお会いになるたびに、ご自分の誠実さも女君の落ち着きもうれしくお思いになる。
去年の思い出話などを優しくなさって、そのまま同じ御殿の玉葛(たまかずら)姫君(ひめぎみ)のところへ行かれる。