明石(あかし)姫君(ひめぎみ)も春の御殿(ごてん)にお住まいでいらっしゃる。
源氏(げんじ)(きみ)が姫君の離れに向かわれると、お庭からにぎやかな声が聞こえた。
女童(めのわらわ)などが小さな松を引き抜いて遊んでいるらしい。
今年の元日(がんじつ)は特別に縁起(えんぎ)のよい日にあたっていて、こういう遊びをすると寿命(じゅみょう)()びるといわれているの。
()(えん)から見ている若い女房(にょうぼう)たちまでお庭へ出たそうにしている。

ちょうどそこへ、冬の御殿にお住まいの明石(あかし)(きみ)から贈り物が届いた。
明石の君は姫君をお生みになった女君(おんなぎみ)よ。
立派な松の枝に、作り物の(うぐいす)が何か言いたそうにとまっているの。
お手紙に、
「あなた様のご成長だけを楽しみに生きている私に、どうか今年最初のお声をお聞かせください。こちらにおりましては何も聞こえてまいりませんから」
とあるのを源氏の君はお気の毒に思われる。
お正月だというのに涙を我慢(がまん)できないようなご様子なの。

「お返事はご自分でお書きなさい。あなたの母君(ははぎみ)です。面倒(めんどう)がってよい相手ではありませんよ」
源氏の君は姫君のために(すずり)をご用意なさる。
<毎日会っていても物足りないように思われるかわいらしい姫だから、もう四年も会えないままの明石の君はさぞかしつらいだろう>
と心苦しくていらっしゃる。

「ずっとお会いしていませんが、お母様のことはわすれていません」
まだ八歳におなりになったばかりの姫君だから、たどたどしく思ったことをお書きになった。