野いちご源氏物語 二三 初音(はつね)

一団(いちだん)がご褒美(ほうび)をいただいて去り、夜がすっかり明けたころ、女君(おんなぎみ)たちはそれぞれの御殿(ごてん)へお戻りになった。
源氏(げんじ)(きみ)はご寝室にお入りになって、日が高くなってから起きていらっしゃった。
昨夜の若君(わかぎみ)のことを思い出して(むらさき)(うえ)におっしゃる。

中将(ちゅうじょう)の声は、我が子ながらなかなかでしたね。声が美しいと評判の貴族にも負けていなかった。不思議と音楽の名人がそろった時代ですよ。昔は学問で優れた人が多かったけれど、今は文化の面で優れた人が多いのかもしれない。
中将のことは真面目な役人にしようと思って育てたのです。私自身学問が苦手で、文化的な趣味のようなことばかりして生きてきましたからね。こんな父親に似てもらっては困ると思っていたけれど、やはり少しは音楽などもできた方がよい。大真面目に澄ましきっているのは鬱陶(うっとう)しいですから」
若君が愛しくて仕方がなくていらっしゃるのね。

昨夜演奏されたおめでたい歌を源氏の君は少し口ずさんでから、
「近いうちにまた女性たちをこちらへお呼びして、皆で音楽会をしましょう」
とおっしゃる。
さっそくご秘蔵(ひぞう)の楽器を取り寄せて美しい袋から出し、手入れをお始めになった。
それを人づてにお聞きになった女君たちは緊張していらっしゃる。