野いちご源氏物語 二三 初音(はつね)

今年の一月には、中級貴族たちが一晩かけて音楽を演奏してまわる行事がある。
まず内裏(だいり)で演奏して、次に上皇(じょうこう)様のお住まい、それから六条(ろくじょう)(いん)に来ることになっているわ。
上皇様のところでは上皇様だけでなく上皇様の母君(ははぎみ)の方も回ったし、六条の院は遠いから、貴族たちが到着したころにはもう明け方だった。
軽い食事とお酒を出して接待(せったい)するのだけれど、源氏(げんじ)(きみ)はふつうよりも豪華な宴会(えんかい)をなさる。

月が澄んでいる。
雪がうっすらと積もった春の御殿(ごてん)のお庭で、一団(いちだん)は音楽を演奏して歌い舞うの。
音楽が得意な貴族が多い時代だったから、笛の()などもとてもおもしろい。
源氏の君がお聞きになっていると思うと、どこよりも演奏に気合が入るみたい。
あらかじめ花散里(はなちるさと)(きみ)明石(あかし)(きみ)に、源氏の君はお手紙をお送りになっていた。
春の御殿まで見物(けんぶつ)にいらっしゃるようにお伝えになって、離れや渡り廊下などにご見物席を用意なさったの。
玉葛(たまかずら)姫君(ひめぎみ)母屋(おもや)の方にお越しになって、明石(あかし)の姫君と初めてお会いになった。
見物なさりながら、(むらさき)(うえ)ともついたて越しにお話しなさる。

雪はだんだん積もっていく。
風が松を越えて吹いてくる。
本来なら寒くてぞっとするでしょうけれど、六条の院のすばらしいお庭で行われたからかしら、楽しくて命が()びるような気がする会だった。
おめでたい歌を歌って舞う貴族たちの姿や声は、絵にも描けないほどのすばらしさよ。
とくに源氏の君の若君(わかぎみ)である中将(ちゅうじょう)(きみ)と、内大臣(ないだいじん)様のご子息(しそく)たちは美しく華やかでいらっしゃったわ。