空蝉の尼君のところにもお顔をお出しになった。
慎ましやかにお暮らしでいらっしゃる。
お部屋のほとんどを仏像や仏教のお道具を置く場所にしておられる。
お道具は上品で風情があるものばかり。
やはり趣味のよい女君なのね。
尼君用の灰色っぽいついたての向こうに隠れていらっしゃる。
そこだけ明るい色合いの袖口がちらりと見えて、源氏の君は昔の恋を思い出して涙ぐまれる。
「こちらには伺わない方がよかったかもしれません。昔からあなたとはすれ違ってばかりでした。それでもここに来てくださったのだから、細い細いご縁でつながっているのでしょうね」
「こんなふうにお世話になる日が来るとは、やはり運命だったのだろうと存じます」
尼君もしんみりとお返事なさる。
「過去に私をあの手この手で拒絶して苦しめなさった罪を、仏様は許すと仰せですか。男というものは私のように聞き分けがよい者ばかりではないと、あれからお分かりになったでしょう」
空蝉の尼君は年上の夫君を亡くされたあと、継子から言い寄られて嫌な思いをなさった。
出家することでかろうじてお逃げになったのだけれど、源氏の君はそれをほのめかしておっしゃったの。
<ご存じだったのか>
と尼君は恥ずかしくて、
「どのような罪を犯したとしても、このようなみっともない姿を見られてしまう以上の罰がございますでしょうか」
とお泣きになる。
昔以上に上品に慎ましくなられて源氏の君のお心は動くけれど、さすがに尼君をお口説きになるわけにはいかない。
ふつうの世間話をなさりながら、
<常陸の宮様の姫君も、このくらい話が通じる方であればよかったのだが>
と、そちらのお住まいの方をご覧になる。
慎ましやかにお暮らしでいらっしゃる。
お部屋のほとんどを仏像や仏教のお道具を置く場所にしておられる。
お道具は上品で風情があるものばかり。
やはり趣味のよい女君なのね。
尼君用の灰色っぽいついたての向こうに隠れていらっしゃる。
そこだけ明るい色合いの袖口がちらりと見えて、源氏の君は昔の恋を思い出して涙ぐまれる。
「こちらには伺わない方がよかったかもしれません。昔からあなたとはすれ違ってばかりでした。それでもここに来てくださったのだから、細い細いご縁でつながっているのでしょうね」
「こんなふうにお世話になる日が来るとは、やはり運命だったのだろうと存じます」
尼君もしんみりとお返事なさる。
「過去に私をあの手この手で拒絶して苦しめなさった罪を、仏様は許すと仰せですか。男というものは私のように聞き分けがよい者ばかりではないと、あれからお分かりになったでしょう」
空蝉の尼君は年上の夫君を亡くされたあと、継子から言い寄られて嫌な思いをなさった。
出家することでかろうじてお逃げになったのだけれど、源氏の君はそれをほのめかしておっしゃったの。
<ご存じだったのか>
と尼君は恥ずかしくて、
「どのような罪を犯したとしても、このようなみっともない姿を見られてしまう以上の罰がございますでしょうか」
とお泣きになる。
昔以上に上品に慎ましくなられて源氏の君のお心は動くけれど、さすがに尼君をお口説きになるわけにはいかない。
ふつうの世間話をなさりながら、
<常陸の宮様の姫君も、このくらい話が通じる方であればよかったのだが>
と、そちらのお住まいの方をご覧になる。



