新年のあわただしさが落ち着いたころ、源氏の君はひさしぶりに二条の東の院にいらっしゃった。
常陸の宮様の姫君は、宮家の姫という高いご身分の方でいらっしゃるから、源氏の君も雑にお扱いにはならない。
人前ではご立派なお扱いをなさる。
この姫君はお若いころは見事な黒髪をお持ちだったの。
でも今は、量が減って白髪も多くなってしまわれた。
源氏の君はお気の毒に思って目を逸らされる。
お贈りになった柳色の晴れ着は、ご想像どおりまったくお似合いになっていない。
下に着るお着物も一緒にお贈りになったはずなのに、なぜかご自分の黒いお着物をお召しになっていて寒々しい。
お鼻の先はあいかわらず赤くて目立つ。
源氏の君は小さなため息をもらされた。
さりげなくついたてをお置きになるけれど、姫君はとくに何もお思いではない。
お世話されることにすっかり慣れて、源氏の君を無邪気に頼りにしていらっしゃるの。
<あまりに世間知らずでいらっしゃる。ご身分が尊いだけでなく、お考えがふつうの女性らしくない方だから、私だけはこの方を見捨ててはならない>
とご決心なさった。
やはりお寒いようで、姫君はお体を震わせながら話される。
源氏の君はお気の毒になってしまわれる。
「お着物の管理をする女房はいますか。気楽なお暮らしなのですから、見た目など気になさらず暖かいものをお召しなされませ」
と源氏の君がおっしゃると、姫君はめずらしくお笑いになった。
「お寺にいらっしゃる兄のお着物を女房たちに作らせていたら、私の分まで手が回らなかったようなのです。毛皮の上着があったのですが、それも兄のところに送ってしまいましたから寒うございます」
このご兄妹はそろって無頓着というか、世間知らずでいらっしゃるのよね。
宮家の姫君らしいおおらかさと言えなくもないけれど、やはり無邪気すぎるわ。
でも高いご身分の姫君には、源氏の君も失礼なことはおっしゃれない。
「毛皮の上着は女性向けではありませんから、兄君に差し上げて正解でございます。それよりも下に着込まれた方がよろしいでしょう。布地が足りなければおっしゃってください。私はうっかり者ですし、あちこちに用事が多くて気が回らないことがございます」
源氏の君はそうおっしゃると隣の二条の院へ行かれた。
倉庫から上等な布地を取りださせて、姫君に届けるようお命じになる。
六条の院にお移りになってから、この二条の院は空き家になっている。
静かだけれどお庭の木立はあいかわらず立派なの。
とくに今は紅梅がすばらしい。
誰にももてはやされない木立を見渡して、
「懐かしい二条の院に来てみたら、めずらしい花も鼻も見られた」
と独り言をおっしゃった。
常陸の宮様の姫君は、宮家の姫という高いご身分の方でいらっしゃるから、源氏の君も雑にお扱いにはならない。
人前ではご立派なお扱いをなさる。
この姫君はお若いころは見事な黒髪をお持ちだったの。
でも今は、量が減って白髪も多くなってしまわれた。
源氏の君はお気の毒に思って目を逸らされる。
お贈りになった柳色の晴れ着は、ご想像どおりまったくお似合いになっていない。
下に着るお着物も一緒にお贈りになったはずなのに、なぜかご自分の黒いお着物をお召しになっていて寒々しい。
お鼻の先はあいかわらず赤くて目立つ。
源氏の君は小さなため息をもらされた。
さりげなくついたてをお置きになるけれど、姫君はとくに何もお思いではない。
お世話されることにすっかり慣れて、源氏の君を無邪気に頼りにしていらっしゃるの。
<あまりに世間知らずでいらっしゃる。ご身分が尊いだけでなく、お考えがふつうの女性らしくない方だから、私だけはこの方を見捨ててはならない>
とご決心なさった。
やはりお寒いようで、姫君はお体を震わせながら話される。
源氏の君はお気の毒になってしまわれる。
「お着物の管理をする女房はいますか。気楽なお暮らしなのですから、見た目など気になさらず暖かいものをお召しなされませ」
と源氏の君がおっしゃると、姫君はめずらしくお笑いになった。
「お寺にいらっしゃる兄のお着物を女房たちに作らせていたら、私の分まで手が回らなかったようなのです。毛皮の上着があったのですが、それも兄のところに送ってしまいましたから寒うございます」
このご兄妹はそろって無頓着というか、世間知らずでいらっしゃるのよね。
宮家の姫君らしいおおらかさと言えなくもないけれど、やはり無邪気すぎるわ。
でも高いご身分の姫君には、源氏の君も失礼なことはおっしゃれない。
「毛皮の上着は女性向けではありませんから、兄君に差し上げて正解でございます。それよりも下に着込まれた方がよろしいでしょう。布地が足りなければおっしゃってください。私はうっかり者ですし、あちこちに用事が多くて気が回らないことがございます」
源氏の君はそうおっしゃると隣の二条の院へ行かれた。
倉庫から上等な布地を取りださせて、姫君に届けるようお命じになる。
六条の院にお移りになってから、この二条の院は空き家になっている。
静かだけれどお庭の木立はあいかわらず立派なの。
とくに今は紅梅がすばらしい。
誰にももてはやされない木立を見渡して、
「懐かしい二条の院に来てみたら、めずらしい花も鼻も見られた」
と独り言をおっしゃった。



