野いちご源氏物語 二二 玉葛(たまかずら)

いつまでも知人の家に世話になっているわけにもいかない。
かといって他に行く場所もない。
このままでは都にいられなくなりそうで、乳母(めのと)は一日中(なげ)いている。

長男は母親を(なぐさ)めて言う。
「九州を離れたことは正しい決断でしたよ。姫君(ひめぎみ)さえお守りできれば、私たちなどどうなってもよいではありませんか。自分たちがよい暮らしをするために、もし姫君を大夫(たいふ)(げん)などに差し出していたら、きっと今ごろ後悔(こうかい)していたでしょう。
こんなときは(かみ)(だの)みです。近くに石清水(いわしみず)八幡宮(はちまんぐう)という有名な神社がありますから、そこへお参りいたしましょう。九州でもお参りしていた神社と同じ神様がいらっしゃるそうですよ。『都に戻れますように』とあちらでお願いしていたのですから、『おかげさまで無事に戻れました』とご報告申し上げねば」
乳母は長男の言うとおり神様にお(れい)(まい)りをして、少し気分も晴れたようだったわ。