<なんとかしてあきらめさせよう>
と、乳母が恐る恐る応対に出た。
大夫の監は自分の本気を分かってもらおうと張り切ってしゃべる。
「お亡くなりになった夫君はとてもご立派な方でした。ぜひ仲良くしていただきたいと思っておりますうちに亡くなってしまわれ、残念でございます。その代わりにこちらの姫君にお仕えしたいと思いまして、今日はお願いに上がりました。
これでもここまで参るのには勇気が必要だったのです。私とは身分の違う姫君でいらっしゃるそうですから、恐れ多いことだとは分かっております。しかしもし姫君をいただきましたら、私の主と思って、頭の上に捧げ持つつもりでお仕えいたしましょう。
そちらは私に妻がたくさんいることをご存じで、それで心配なさっているのではありませんか。そのようなご心配はいりませんよ。姫君をあんな女たちと同列にはいたしません。内裏の中宮様のように大切にいたしますから」
きっぱり断るのは恐くて、乳母は丁寧に返答する。
「そのようにおっしゃってくださるのはありがたいことですが、運の悪い子なのです。体が不自由なことを気に病んでおりましてね、結婚などできないと嘆いておりますから、私も気の毒になるほどなのです」
「そんなことをお気になさいますな。もし目が見えなくとも、脚が動かなくとも、私がお世話して治してさしあげましょう。神様も仏様も私の願いなら何でも聞いてくださいますから」
大夫の監は姫君を引き取る日にちを勝手に決めようとする。
乳母は困って、
「その日はお日柄がよくありませんから」
と我ながら田舎くさいことを言ってうやむやにした。
お屋敷から出ていくとき、大夫の監はしばらく立ち止まって何か考えている。
別れ際に気の利いたことを言いたいらしい。
やっと口を開いた。
「姫君を一途に愛すると九州の神様に誓います。万が一それを破ることがあれば、どのような罰でも受けましょう。いやいや、我ながらよいことを言った」
とにこにこして言う。
女性に気の利いたことなんて言ったことがない人なのでしょうね。
むさくるしいのに初々しい。
乳母はずっと緊張していたから、とっさに返事ができない。
そばにいる娘のどちらかに代わりに答えさせようとするけれど、
「私たちも動揺していますから、とても無理です」
と断られてしまった。
あまり時間をかけるのもよくないので、深く考えないまま震えた声で言う。
「こちらも長年九州の神様にお願いしていることがありますから、それが叶わなくなったら神様をお恨みいたします」
大夫の監は首をかしげる。
「こちらだって姫君の都でのお幸せを神様に祈ってあるのだから、あなたが何を誓ったところで無駄ですよ」
とはっきり言ってしまえればよいけれど、それはできない。
「お待ちなされ、どういう意味でしょうか」
せっかく帰りそうだったのに、また近づいてくる。
乳母はおびえて真っ青になる。
娘のひとりが気を強くもって愛想よく言った。
「姫君があなた様とご結婚できますようにと神様にお願いしてありますから、それが叶わなくなったら悲しいという意味でございます。なにぶん年老いて呆けかかった母の申すことですから、分かりづらくて失礼いたしました」
大夫の監は納得したらしく、
「ああ、なるほどなるほど。さすが風流でいらっしゃる。私も風流は分かっているのです。都の人と何も変わりません。田舎者と見下しなさいますな」
と言って、もう一度気の利いたことを言おうとする。
しばらく考えていたけれど、何も思い浮かばなかったみたい。
やっと帰っていったわ。
と、乳母が恐る恐る応対に出た。
大夫の監は自分の本気を分かってもらおうと張り切ってしゃべる。
「お亡くなりになった夫君はとてもご立派な方でした。ぜひ仲良くしていただきたいと思っておりますうちに亡くなってしまわれ、残念でございます。その代わりにこちらの姫君にお仕えしたいと思いまして、今日はお願いに上がりました。
これでもここまで参るのには勇気が必要だったのです。私とは身分の違う姫君でいらっしゃるそうですから、恐れ多いことだとは分かっております。しかしもし姫君をいただきましたら、私の主と思って、頭の上に捧げ持つつもりでお仕えいたしましょう。
そちらは私に妻がたくさんいることをご存じで、それで心配なさっているのではありませんか。そのようなご心配はいりませんよ。姫君をあんな女たちと同列にはいたしません。内裏の中宮様のように大切にいたしますから」
きっぱり断るのは恐くて、乳母は丁寧に返答する。
「そのようにおっしゃってくださるのはありがたいことですが、運の悪い子なのです。体が不自由なことを気に病んでおりましてね、結婚などできないと嘆いておりますから、私も気の毒になるほどなのです」
「そんなことをお気になさいますな。もし目が見えなくとも、脚が動かなくとも、私がお世話して治してさしあげましょう。神様も仏様も私の願いなら何でも聞いてくださいますから」
大夫の監は姫君を引き取る日にちを勝手に決めようとする。
乳母は困って、
「その日はお日柄がよくありませんから」
と我ながら田舎くさいことを言ってうやむやにした。
お屋敷から出ていくとき、大夫の監はしばらく立ち止まって何か考えている。
別れ際に気の利いたことを言いたいらしい。
やっと口を開いた。
「姫君を一途に愛すると九州の神様に誓います。万が一それを破ることがあれば、どのような罰でも受けましょう。いやいや、我ながらよいことを言った」
とにこにこして言う。
女性に気の利いたことなんて言ったことがない人なのでしょうね。
むさくるしいのに初々しい。
乳母はずっと緊張していたから、とっさに返事ができない。
そばにいる娘のどちらかに代わりに答えさせようとするけれど、
「私たちも動揺していますから、とても無理です」
と断られてしまった。
あまり時間をかけるのもよくないので、深く考えないまま震えた声で言う。
「こちらも長年九州の神様にお願いしていることがありますから、それが叶わなくなったら神様をお恨みいたします」
大夫の監は首をかしげる。
「こちらだって姫君の都でのお幸せを神様に祈ってあるのだから、あなたが何を誓ったところで無駄ですよ」
とはっきり言ってしまえればよいけれど、それはできない。
「お待ちなされ、どういう意味でしょうか」
せっかく帰りそうだったのに、また近づいてくる。
乳母はおびえて真っ青になる。
娘のひとりが気を強くもって愛想よく言った。
「姫君があなた様とご結婚できますようにと神様にお願いしてありますから、それが叶わなくなったら悲しいという意味でございます。なにぶん年老いて呆けかかった母の申すことですから、分かりづらくて失礼いたしました」
大夫の監は納得したらしく、
「ああ、なるほどなるほど。さすが風流でいらっしゃる。私も風流は分かっているのです。都の人と何も変わりません。田舎者と見下しなさいますな」
と言って、もう一度気の利いたことを言おうとする。
しばらく考えていたけれど、何も思い浮かばなかったみたい。
やっと帰っていったわ。



