そのなかに、「大夫の監」と呼ばれている男がいた。
乳母の亡き夫の部下だけれど、都から赴任してきたのではなくて、九州で生まれ育った人よ。
地元では有力者で、武士の集団も抱えている。
それこそ怒らせたら何をされるか分からないわ。
そんな荒々しい男だけれど、女好きなところもあって、美しい女性を集めたいと思っていた。
姫君のことを聞きつけて、
「どのように不自由な体であっても、私がお世話いたしましょう」
と熱心な手紙を寄越すので、乳母はぞっとする。
「尼になる決心は変わらないようです」
と返事したけれど、大夫の監ははるばる姫君のお屋敷近くまで来てしまったの。
乳母の息子たちを呼んで、自分の味方になるよう説得する。
「姫君を手に入れられたら、あなた方を私の仲間に加えますよ。協力してやっていきましょう」
とそそのかすと、三人の息子のうち二人はうなずいてしまった。
母親である乳母のところへ行って言う。
「私たちも初めは、大夫の監など姫君にはふさわしくないと思っておりました。しかしこの九州で生きていくのなら、あの男ほど頼りになる人はいないのです。あれに嫌われてしまったら、ここでは生きていけません。
いくら姫君がご立派なお血筋と申しても、父君に娘として扱われていらっしゃらないのなら、実際は何の役にも立たないでしょう。大夫の監が言い寄ってきてくれるのが、今の姫君のご幸運です。あの男と結婚なさる運命だったから、都を離れて九州までいらっしゃったとも思われます。逃げ隠れなさるのは逆効果ですよ。負けん気に火がついて、武力を使ってくるでしょう」
次男と三男は脅しのようなことまで言うけれど、長男はきっぱりと言う。
「やはりそれは姫君に恐れ多い。亡くなった父の遺言もあるのだから、都にお戻ししよう」
娘二人はおろおろと泣いている。
「夕顔の君が行方不明になってしまわれてから、その代わりに姫君をご立派にお育てしようと思ってまいりましたのに、田舎者のなかに混ざってしまわれるとは」
こうやって見下されていることも知らず、大夫の監は手紙を送ってくる。
<私は世間から尊敬される立派な人物だ>
と信じて疑わないから、そんなことができるのね。
筆跡は汚くはない。
舶来の色がついた上等な紙に、よい香りを焚きしめてある。
「うまいことを言った」と得意気に書いたであろう部分は、訛りが混ざっているのだけれど。
次男をお供にして、ついに姫君のお屋敷へやって来た。
三十歳くらいの大男で、汚いわけではないけれど振舞いが乱暴なの。
見ているだけでぞっとする。
上機嫌で顔色がよく、がらがら声を張り上げてしゃべる。
恋をする男性は夜にこっそり訪れて女性を口説くものなのに、そんなことも知らないみたい。
春なのにあきれちゃうわ。
乳母の亡き夫の部下だけれど、都から赴任してきたのではなくて、九州で生まれ育った人よ。
地元では有力者で、武士の集団も抱えている。
それこそ怒らせたら何をされるか分からないわ。
そんな荒々しい男だけれど、女好きなところもあって、美しい女性を集めたいと思っていた。
姫君のことを聞きつけて、
「どのように不自由な体であっても、私がお世話いたしましょう」
と熱心な手紙を寄越すので、乳母はぞっとする。
「尼になる決心は変わらないようです」
と返事したけれど、大夫の監ははるばる姫君のお屋敷近くまで来てしまったの。
乳母の息子たちを呼んで、自分の味方になるよう説得する。
「姫君を手に入れられたら、あなた方を私の仲間に加えますよ。協力してやっていきましょう」
とそそのかすと、三人の息子のうち二人はうなずいてしまった。
母親である乳母のところへ行って言う。
「私たちも初めは、大夫の監など姫君にはふさわしくないと思っておりました。しかしこの九州で生きていくのなら、あの男ほど頼りになる人はいないのです。あれに嫌われてしまったら、ここでは生きていけません。
いくら姫君がご立派なお血筋と申しても、父君に娘として扱われていらっしゃらないのなら、実際は何の役にも立たないでしょう。大夫の監が言い寄ってきてくれるのが、今の姫君のご幸運です。あの男と結婚なさる運命だったから、都を離れて九州までいらっしゃったとも思われます。逃げ隠れなさるのは逆効果ですよ。負けん気に火がついて、武力を使ってくるでしょう」
次男と三男は脅しのようなことまで言うけれど、長男はきっぱりと言う。
「やはりそれは姫君に恐れ多い。亡くなった父の遺言もあるのだから、都にお戻ししよう」
娘二人はおろおろと泣いている。
「夕顔の君が行方不明になってしまわれてから、その代わりに姫君をご立派にお育てしようと思ってまいりましたのに、田舎者のなかに混ざってしまわれるとは」
こうやって見下されていることも知らず、大夫の監は手紙を送ってくる。
<私は世間から尊敬される立派な人物だ>
と信じて疑わないから、そんなことができるのね。
筆跡は汚くはない。
舶来の色がついた上等な紙に、よい香りを焚きしめてある。
「うまいことを言った」と得意気に書いたであろう部分は、訛りが混ざっているのだけれど。
次男をお供にして、ついに姫君のお屋敷へやって来た。
三十歳くらいの大男で、汚いわけではないけれど振舞いが乱暴なの。
見ているだけでぞっとする。
上機嫌で顔色がよく、がらがら声を張り上げてしゃべる。
恋をする男性は夜にこっそり訪れて女性を口説くものなのに、そんなことも知らないみたい。
春なのにあきれちゃうわ。



