野いちご源氏物語 二二 玉葛(たまかずら)

五年が過ぎて、乳母(めのと)の夫の九州での任期(にんき)が終わった。
都へ戻らなければならないけれど、夫は真面目すぎたのかしら、五年間でそれほど財産を増やせなかったの。
出発の準備が整わず、ぐずぐずしているうちに病気になってしまった。

今にも死にそうなのだけれど、ただひたすら姫君(ひめぎみ)のことを心配している。
「もう十歳でいらっしゃいますね。不吉(ふきつ)なほどお美しくなられました。私まで姫君を置いて死んでしまったら、この先どのようになってしまわれるのでしょうか。都から遠く離れたところでお育てするのは申し訳ないことでしたが、いつか都にお連れして、父君(ちちぎみ)にご連絡もして、ふさわしい人生に戻してさしあげたいと思っておりました。都ならば姫君も十分お幸せになれるだろうから、早く帰らなければと(あせ)っているうちに、こんなところで私の命が()きようとおります」
と自分を責める。

三人の息子たちに、
「私が死んだら、そなたたちは姫君を都にお連れすることだけを考えよ。葬式(そうしき)法要(ほうよう)などのことは考えてはならぬ」
と言い残して亡くなったわ。