野いちご源氏物語 二二 玉葛(たまかずら)

夕顔(ゆうがお)(きみ)姫君(ひめぎみ)のお引越しは、なかなか準備が進まない。
まず、それなりに品のよい女童(めのわらわ)女房(にょうぼう)が必要なの。
九州では、都から(わけ)あって流れてきた女房たちを(やと)っていたけれど、()()げのときに連れてくることはできなかった。
だから、ふさわしい人を探して雇わなければいけない。
なんとか人数を集めて、女房用の着物なども整え、姫君は十月に六条(ろくじょう)(いん)にお移りになった。

源氏(げんじ)(きみ)花散里(はなちるさと)(きみ)にお願いなさる。
「まだ若かったころ、恋人が私との関係をつらく思って行方(ゆくえ)不明(ふめい)になったのです。娘を連れて姿を消してしまいましたから、長年必死に探していました。すると先日、思いがけないところから、娘がすっかり大人になっていると聞きましてね。その子を六条の院のこちらの屋敷に住まわせてやりたいのです。
母親はもう亡くなっていますから、あなたが母代わりをしてくださいませんか。すでに息子の後見(こうけん)をお願いしておりますが、同じようにこの娘も後見してやってください。山里(やまざと)で育った子ですから、田舎(いなか)くさいところが多いでしょう。いろいろと教えてやってください」

丁寧にお願いなさるのを、花散里の君はおっとりとほほえみながらお聞きになる。
「そんな姫君がいらっしゃったのですね。あなた様には姫君がおひとりだけでお寂しゅうございましたから、おめでたいことでございます」
「亡くなった母親は、おっとりとした優しい人でした。あなたによく似ていますから、その点でも私はあなたに安心してお(まか)せしようと思えるのです」
「お世話してさしあげる方が若君(わかぎみ)おひとりだけでは退屈(たいくつ)でしたから、姫君のお世話もさせていただけるのは嬉しいことでございます」
気を悪くすることもなく、素直に源氏の君にお従いになるの。