野いちご源氏物語 二二 玉葛(たまかずら)

姫君は内心、
<これほどお優しいお手紙でなくてよいから、実の父君(ちちぎみ)からお手紙をいただきたかった。どうしてまったく知らない方のお屋敷に移らなければならないのだ>
と思って、右近(うこん)に遠回しにそうおっしゃる。

でも右近は、
源氏(げんじ)(きみ)がご親切におっしゃっているのでございますから、まずは(おお)せのとおりになされませ」
と申し上げるし、乳母(めのと)女房(にょうぼう)たちも口々に賛成する。
「とりあえず貴族社会の一員(いちいん)になられることが先でございます。そうすれば自然と内大臣(ないだいじん)様のお耳にも入って、父君だと名乗り出てくださいますでしょう。親子というのは切っても切れない(えん)でございますから」
「姫君は右近(うこん)殿(どの)とも再会なさったではありませんか。神様や仏様にお願いすれば、それほど縁が深くないはずの女房でも再会できるのですもの、まして父君にはいつか必ずお会いになれます」

乳母は、
「とにかくお返事をお書きなされませ」
と言って、紙や(すずり)を用意する。
<とても田舎(いなか)くさい筆跡(ひっせき)なのに>
と姫君は恥ずかしく思っていらっしゃるの。
舶来(はくらい)の上等な紙の、よい香りをしみこませたものにお書きになった。

「私のような者とどのようなご縁だと仰せなのでございましょう。立派なご縁があるとは思われない不幸な私でございますのに」
ご筆跡は(はかな)げで弱々しいけれど、上品で悪くはないので、源氏の君は安心なさった。