野いちご源氏物語 二二 玉葛(たまかずら)

姫君(ひめぎみ)のお話をお聞きになってから、源氏(げんじ)(きみ)はたびたび右近(うこん)をお呼びになる。
他の女房(にょうぼう)たちは遠ざけて、(むらさき)(うえ)にも聞かれないようにこっそりご相談なさるの。
「姫君を六条(ろくじょう)(いん)にお移ししよう。ようやく居場所(いばしょ)が分かったのだから、なるべく早い方がよい。父君(ちちぎみ)内大臣(ないだいじん)にはまだ話さなくてもよいだろう。あちらはお子が多くてにぎやかだ。頼りになる母親もいないのに、今さらそんなところへ入っていったらかえってつらい目に()う。
私の方は子どもが少ないから、思いがけないところから娘を見つけたと公表すればよい。大切に世話をして、女好きな男たちに必死に求婚(きゅうこん)させてやろうではないか」

源氏の君の深いお考えまでは分からないけれど、とりあえず姫君の幸せへの第一歩になりそうで、右近はよろこんだ。
「かしこまりました。内大臣様にはお知らせなさらなくても、きっとどこかからお耳に入ることと存じます。夕顔の君への(つみ)(ほろ)ぼしとお思いになって、早く姫君を引き取って助けてさしあげてくださいませ」
「すべての原因が私にあるように言うではないか」
源氏の君はほほえみながら涙ぐまれる。

「夕顔の君とは短すぎる関係だった。実のところ、六条の院に集めた恋人たちのなかには、あの人ほど愛したわけではない人も混ざっていらっしゃる。そういう人たちは長生きしたからこそ私の誠意(せいい)をご覧になれたのだが、夕顔の君はそれを知る前に亡くなってしまった。そなただけを形見(かたみ)として世話してきたけれど、姫君がここへ来てくださったら、やっとあの人にも誠意をお見せできるだろう」
とおっしゃって、まずはお手紙をお書きになる。

<右近は手放しで()めるが、やはり田舎(いなか)育ちであることが気になる。筆跡(ひっせき)や文章が野暮(やぼ)ったいかもしれない。どのような返事を送ってくるか見てみよう>
と思っていらっしゃるの。
きちんと丁寧にお書きになって、最後に、
「あなたはまだご存じないでしょうが、あなたと私は深い(えん)で結ばれているのですよ」
とお加えになった。

お手紙は右近が預かって、姫君の(かり)()まいまでお届けした。
姫君や女房(にょうぼう)のためのお着物などもお贈りになる。
(むらさき)(うえ)にも少し事情をお話しになって、おふたりでご用意なさったのでしょうね。
色合いも仕立ても最高級のお着物ばかりだから、田舎の着物を見慣れている姫君たちはびっくりなさったわ。