右近は姫君に会いたいと思っていた。
でもあの貧しい家に行って、女主人が亡くなったことだけを伝えても、女房たちは納得しないでしょう?
きっと女主人と源氏の君のご関係まで話さなければならなくなる。
源氏の君は、
「夕顔の君の急死に私が関係していることを誰にも言ってはいけない」
と厳しくお命じになったから、右近は姫君や女房仲間に手紙を送ることもできなかった。
貧しい家に残されたのは、四歳になられた姫君と、姫君の乳母や女房など。
女房のうち二人は乳母の娘よ。
姫君の母である女主人は行方不明だし、姫君の父である頭中将様は今さら頼れない。
そんなときに乳母の夫が人事異動で九州へ行くことになった。
うまくやればかなりの財産をつくれる役職なの。
乳母は、いっそのこと姫君を連れて夫の赴任先へ行こうかと悩んだわ。
夕顔の君の行方は心当たりをすべて探した。
神様や仏様にもお願いした。
それでも見つからなかったのだから、
「もはや夕顔の君のことは諦めて、姫君をお形見として大切にいたしましょう。しかし九州はあまりに遠い。やはり父君の頭中将様にこっそりご連絡してみた方がよいのでは」
と娘たちに相談する。
「そんなことをしたら、頭中将様は必ず『母親はどこにいる』とお尋ねになりますよ。何とお答えしたらよいのでしょうか」
「うまく言いつくろって、もし姫君を引き取ってくださることになったとしても、姫君は父君のお顔も覚えていらっしゃらないわけですから、あちらのお屋敷になじめるかどうか心配でございます。かといって、『おまえたちが九州でもどこでも連れていけ』とは決しておっしゃらないでしょうし」
と、誰もかれも悩んでしまう。
頭中将様にご連絡しても、うまく行く感じはしないのよね。
結局、頭中将様にはお知らせせず、姫君を連れて九州へ行くことにした。
姫君、乳母夫婦、その娘二人と息子三人、それから家来や下働きの男女で移動する。
姫君はとてもおかわいらしく、まだ幼いのに気高さまでおありになる。
そんな姫君を質素な船にお乗せして九州へ向かうのは、誰にとってもつらいことだったわ。
姫君は幼心に母君のことを思い出して、
「お母様のところへ行くの?」
とお尋ねになる。
その健気なご様子に娘二人は思わず泣いてしまうので、
「船旅に涙は不吉ですよ」
と母親の乳母は叱る。
幸い船旅は順調で、景色もよい。
<夕顔の君がご一緒なら、めずらしい景色などを見てお喜びになっただろうに。しかし、いらっしゃれば私たちはこんなふうに九州へ行くことなどなかったのだ>
と、女主人がいるかもしれない都の方を娘たちは振り返る。
陸に向かって帰っていく波さえうらやましく思われるの。
船頭が荒々しい声で悲しい歌を歌うので、娘たちは向かい合って泣く。
「誰を恋しがって歌っているのでしょう」
「もう海の真ん中だもの、どちらを向いて恋しがればよいのでしょうね」
こんなことを言っていないと、とても耐えられない旅なの。
一行は赴任先に着いた。
あらためて都から遠く離れてしまったことに悲しくなる。
姫君を大切にお育てすることで、悲しみを紛らわせるしかない。
乳母はたまに夢で夕顔の君を見る。
夢のなかで、女主人はいつも謎の女性とご一緒なの。
そして夢からさめたあとは、毎回寒気がして体調が悪くなる。
<あの女性がどなたかは分からないけれど、こんなにぞっとする夢なのだから、やはり夕顔の君はもうお亡くなりになっているのだろう>
と、悪い予感につらくなる。
でもあの貧しい家に行って、女主人が亡くなったことだけを伝えても、女房たちは納得しないでしょう?
きっと女主人と源氏の君のご関係まで話さなければならなくなる。
源氏の君は、
「夕顔の君の急死に私が関係していることを誰にも言ってはいけない」
と厳しくお命じになったから、右近は姫君や女房仲間に手紙を送ることもできなかった。
貧しい家に残されたのは、四歳になられた姫君と、姫君の乳母や女房など。
女房のうち二人は乳母の娘よ。
姫君の母である女主人は行方不明だし、姫君の父である頭中将様は今さら頼れない。
そんなときに乳母の夫が人事異動で九州へ行くことになった。
うまくやればかなりの財産をつくれる役職なの。
乳母は、いっそのこと姫君を連れて夫の赴任先へ行こうかと悩んだわ。
夕顔の君の行方は心当たりをすべて探した。
神様や仏様にもお願いした。
それでも見つからなかったのだから、
「もはや夕顔の君のことは諦めて、姫君をお形見として大切にいたしましょう。しかし九州はあまりに遠い。やはり父君の頭中将様にこっそりご連絡してみた方がよいのでは」
と娘たちに相談する。
「そんなことをしたら、頭中将様は必ず『母親はどこにいる』とお尋ねになりますよ。何とお答えしたらよいのでしょうか」
「うまく言いつくろって、もし姫君を引き取ってくださることになったとしても、姫君は父君のお顔も覚えていらっしゃらないわけですから、あちらのお屋敷になじめるかどうか心配でございます。かといって、『おまえたちが九州でもどこでも連れていけ』とは決しておっしゃらないでしょうし」
と、誰もかれも悩んでしまう。
頭中将様にご連絡しても、うまく行く感じはしないのよね。
結局、頭中将様にはお知らせせず、姫君を連れて九州へ行くことにした。
姫君、乳母夫婦、その娘二人と息子三人、それから家来や下働きの男女で移動する。
姫君はとてもおかわいらしく、まだ幼いのに気高さまでおありになる。
そんな姫君を質素な船にお乗せして九州へ向かうのは、誰にとってもつらいことだったわ。
姫君は幼心に母君のことを思い出して、
「お母様のところへ行くの?」
とお尋ねになる。
その健気なご様子に娘二人は思わず泣いてしまうので、
「船旅に涙は不吉ですよ」
と母親の乳母は叱る。
幸い船旅は順調で、景色もよい。
<夕顔の君がご一緒なら、めずらしい景色などを見てお喜びになっただろうに。しかし、いらっしゃれば私たちはこんなふうに九州へ行くことなどなかったのだ>
と、女主人がいるかもしれない都の方を娘たちは振り返る。
陸に向かって帰っていく波さえうらやましく思われるの。
船頭が荒々しい声で悲しい歌を歌うので、娘たちは向かい合って泣く。
「誰を恋しがって歌っているのでしょう」
「もう海の真ん中だもの、どちらを向いて恋しがればよいのでしょうね」
こんなことを言っていないと、とても耐えられない旅なの。
一行は赴任先に着いた。
あらためて都から遠く離れてしまったことに悲しくなる。
姫君を大切にお育てすることで、悲しみを紛らわせるしかない。
乳母はたまに夢で夕顔の君を見る。
夢のなかで、女主人はいつも謎の女性とご一緒なの。
そして夢からさめたあとは、毎回寒気がして体調が悪くなる。
<あの女性がどなたかは分からないけれど、こんなにぞっとする夢なのだから、やはり夕顔の君はもうお亡くなりになっているのだろう>
と、悪い予感につらくなる。



