野いちご源氏物語 二二 玉葛(たまかずら)

その夜の参拝(さんぱい)(きゃく)のなかに、ひときわ派手(はで)な集団がいる。
地方長官の正妻(せいさい)一行(いっこう)だった。
たくさんのお(とも)が丁寧に(おんな)主人(しゅじん)の世話しているのを見て、下働きの女が祈る。
「仏様、どうか姫君(ひめぎみ)を地方長官のご正妻にしてくださいませ。私も今よりよい暮らしができるでしょうから、お礼は(はず)ませていただきます」
合わせた両手を(ひたい)にあてて必死に念じているの。

右近(うこん)は、
縁起(えんぎ)でもない>
と思って女を(しか)る。
「ずいぶん田舎(いなか)くさい考えになってしまったのですね。姫君の父君(ちちぎみ)は、頭中将(とうのちゅうじょう)であられたお若いころからご立派でしたが、今は天下の内大臣(ないだいじん)様でいらっしゃいますよ。その姫君が地方長官の正妻など、ふさわしくありません」

女は、
「難しいことをおっしゃらないでください。右近殿は地方長官のすごさをご存じないのです。九州におりましたときも、あちらの地方長官のご一行をお寺でお見かけしましたけどね、それはもう(みかど)のご移動のようなお行列(ぎょうれつ)でしたよ」
と言って、合わせた両手を離そうとはしない。
ひたすら仏様を(おが)んで祈っている。