野いちご源氏物語 二二 玉葛(たまかずら)

日が暮れる前にお寺に出かける。
あわただしく一旦(いったん)別れることになった。
「一緒にお寺まで行きましょう」
右近(うこん)は誘ったけれど、お互いのお(とも)(あや)しむだろうから乳母(めのと)は断った。
まだ長男にも話していないの。

宿(やど)からぞろぞろと出ていくとき、右近はさりげなく姫君(ひめぎみ)を探す。
疲れたご様子ではあるものの、お(ぐし)の美しい後ろ姿を見つけた。
<ご立派な姫君でいらっしゃるのに、こんなにご苦労をされて>
と悲しく拝見する。

右近はお参りしなれているので、先にお(どう)に着いた。
姫君の一行(いっこう)は、姫君を(はげ)ましながら歩いて、お(きょう)が始まるころに到着した。
お堂のなかは参拝(さんぱい)(きゃく)で騒がしい。
右近の席は仏像(ぶつぞう)の近くに用意されていた。
姫君のお席がはるか遠いことに気づいた右近は、
「こちらにいらっしゃいませ」
と伝える。
乳母は長男に事情を話した。
男性たちを元の席に残し、女性たちだけで右近のところへ来たわ。

右近は乳母に言う。
「私がこんな上座(かみざ)にいて不思議にお思いになったのではありませんか。実は今、源氏(げんじ)(きみ)のお屋敷で働いているのです。私自身は低い身分ですが、源氏の君のところの者ということで(みょう)な人間は近づいてきません。ここなら安心です。あまり下座(しもざ)にいらっしゃいますと、田舎(いなか)(もの)だろうと馬鹿(ばか)にして失礼なことをしてくる者もいるようです。姫君が嫌な思いをなさるのはもったいのうございますから」

お互いに話したいことはたくさんあるけれど、いかめしい声でお経が読まれはじめたから、仏様を(おが)む。
右近は心のなかで仏様に感謝する。
<『どうか再会させてくださいませ』とお祈りしていた姫君に、おかげさまで今日お会いできました。ありがとうございます。お屋敷に戻りましたら源氏の君にお知らせいたします。ずっと気にかけていらっしゃいましたから、あの方のもとで、どうか姫君がお幸せになれますように>
とお願いもしていたわ。