野いちご源氏物語 二二 玉葛(たまかずら)

やっと下働きの女が来た。
「お呼びでございますか。九州から二十年ぶりに都に戻ってきた私のことなどを、都のお方がご存じとは思われませんので、お人違いではないでしょうか」
田舎(いなか)くさい着物を着て、ひどく太ってしまっているけれど、間違いなく夕顔(ゆうがお)(きみ)の家にいた女なの。

右近(うこん)は、
<私だってそれだけの年をとったのだ>
と恥ずかしくなりながらも、
「もっとよくご覧なさい。私ですよ」
と言う。
すると女は手をたたいて、
右近(うこん)殿(どの)でいらっしゃいましたか。あぁ、なんてうれしい。どちらからいらっしゃったのです。夕顔の君はご一緒ですか」
と興奮して泣く。

「その前に、姫君の乳母(めのと)殿(どの)はそちらにいらっしゃいますか。姫君はどうおなりになりましたか」
次々と尋ねて、夕顔の君が亡くなったことは言わない。
「皆様いらっしゃいますよ。姫君も大人になられました。右近殿がここにいらっしゃることをお伝えしてまいります」
と、下働きの女は()仕切(じき)りの向こうに戻っていった。

乳母と乳母の次女は驚いて、
「夢のようです。夕顔の君と一緒に姿を消した右近に、こんなところで会えるなんて」
と言いながらやって来た。
間仕切りやついたてなどはすべて押しやって、皆で泣き騒いだわ。

乳母は何よりも気になることを尋ねる。
「夕顔の君はどうなさったのですか。長年夢でよいからお会いしたいと祈っておりましたけれど、何しろ九州へ行っておりましたから、風の(うわさ)を聞くこともできませんでした。長生きしてしまってつらく思うこともありましたが、かわいらしい姫君のご将来が心配で死ねなかったのです」

右近は答えづらく思いながらも正直に話す。
「今さら申し上げても仕方のないことですが、夕顔の君は早くにお亡くなりになりました」
言い終わらないうちから、三人でわっと泣き出した。