野いちご源氏物語 二二 玉葛(たまかずら)

ここまでなんとか歩いていらっしゃったけれど、ついに姫君(ひめぎみ)(ちから)()きてしまわれる。
もう足が動かないの。
どうしようもなくて、一行(いっこう)参拝(さんぱい)(きゃく)向けの宿(やど)に入ったわ。
宿は混んでいたけれど、お(とも)も少ないから、なんとか泊めてもらえそう。

日が暮れる前に、一度宿を出てお参りに行く。
そのために必要な物を準備していると、急に部屋の外が騒がしくなった。
宿屋(やどや)の主人が何やら怒っているらしく、いらいらした大きな声が聞こえるの。
「この部屋には大切なお客様がお泊まりになる予定なのに、いったい誰を入れてしまったのだ。勝手なことをしおって」
と言うそばから、その「大切なお客様」がいらっしゃったみたい。

乳母(めのと)がちらりと(のぞ)いてみると、徒歩でお参りに来た女性で、お供がたくさんいる。
目立たないようにしているけれど、おそらくよいところに(つと)めている女房(にょうぼう)、という感じ。
宿屋の主人は、さすがに姫君一行(いっこう)を追い出すことはできずに困っている。
気の毒ではあるものの、ここを出て別の宿を探すのも大変だから、長男が主人に提案する。
「私たちは部屋の奥の方に寄りましょう。今いらっしゃった方たちがお嫌でなければ、間に()仕切(じき)りなどを作って、入れてさしあげてください」

新しい客も承知したらしく、そっと部屋に入ってきた。
きちんとした身分の女性だけれど、姫君一行が遠慮しなければならないほどではなさそう。
感じもよさそうな人だったから、お互いうまく気を(つか)いあって同じ部屋を使うことになったわ。