野いちご源氏物語 二一 乙女(おとめ)

若君(わかぎみ)は入学して最初の試験をお受けになる。
大学(だいがく)(りょう)のなかで昇進(しょうしん)なさるための試験よ。
源氏(げんじ)(きみ)は、模擬(もぎ)試験を行うことになさった。
伯父君(おじぎみ)右大将(うだいしょう)様もいらっしゃった。
学者の先生が若君に出題をすると、若君はすらすらとお答えになるの。
短い期間で必要な書物をしっかりと読み込まれたのね。
誰もかれもが感心なさる。
右大将様は、
「父が生きておりましたら、どれほど喜んだことでしょう」
と泣いてしまわれた。

源氏の君も思わず涙をこぼされる。
厳しくしすぎだろうかと悩まれることもあったのかもしれないわね。
「世間の親たちが、我が子の成長を大騒ぎして喜ぶ気持ちが、今やっと分かりました。こうして次の世代が現れて、我々親は退場していくのですね」
そうおっしゃるご様子を拝見すると、先生は、
<若君にお教えした甲斐(かい)があった>
とうれしそうにしている。

右大将様が先生にお酒をお(すす)めなさる。
満足そうに()っているけれど、いかにも貧乏(びんぼう)学者らしく、顔がやせてしまっているの。
世の中をうまく渡っていくのが下手なのよ。
才能のわりに地位が低く、生活も苦しいみたい。
源氏の君はその才能を見抜いて、若君の先生役に抜擢(ばってき)なさったの。
若君のご教育をしたとなれば、これからはきっと地位も上がっていくことでしょうね。