野いちご源氏物語 二一 乙女(おとめ)

若君(わかぎみ)大学(だいがく)(りょう)に入学したけれど、どこかへ行って勉強なさるというわけではないの。
(ひがし)(いん)に作られた勉強部屋に、立派な博士をお呼びになる。
一対一でみっちりと学問をたたきこまれていらっしゃるわ。
ずっと真面目にお勉強なさっていて、大宮(おおみや)様のところへご機嫌(きげん)(うかが)いに行かれることもめったにない。
源氏(げんじ)(きみ)が、
「大宮様はそなたを子ども扱いしてかわいがってしまわれるから、学問のためにならない。ご挨拶(あいさつ)に伺うのは、ひと月に三度ほどでよい」
とおっしゃるのだもの。

今まで祖母君(そぼぎみ)の大宮様にかわいがられてお育ちになったから、急に勉強部屋にこもって学問をする生活にはお慣れにならない。
父君(ちちぎみ)はお厳しい。このように学問に苦しまなくても、出世して活躍している人だっておられるのに」
と不満でいらっしゃる。
でも、若君はとにかく真面目なご性格なの。
(うわ)ついたところがなくて、我慢強い。
「覚えるべきことを早く覚えて、内裏(だいり)でお役に立とう」
と決意なさってからは、四、五か月のうちに、試験を受けるために必要な書物を読みおえてしまわれた。