大学寮で学ぶときに使う名前をつける儀式は、二条の東の院で行われた。
花散里の君がお住まいのところよ。
貴族たちにとってはめずらしい儀式だから、我も我もと参列なさる。
大学寮の先生である博士たちは、参列者よりも身分の低い人たちだから、さぞかし緊張したでしょうね。
遠慮しがちな博士たちに、源氏の君は父親らしくおっしゃる。
「私の息子だからといって気を遣わないでください。他の学生たちと同じように、厳しく接してほしい」
そうおっしゃられても困るのだけれど、ご命令なので神妙な顔で儀式を進める。
借り物のぶかぶかな着物を着ていることは気にしていないみたい。
表情も声もおおげさで、初めて見るような儀式だったわ。
お若い貴族たちは思わず笑ってしまわれる。
儀式では、貴族が博士たちにお酒を勧めることになっている。
博士というのは作法にうるさいから、落ち着いてお酌をできそうな人があらかじめ選ばれていた。
大宮様のご子息である右大将様もそのおひとりよ。
若君の伯父として、「これから甥をよろしく」とお酌をなさる。
でも、学者との宴会なんて慣れていらっしゃらないから、お酌をする手つきがたどたどしい。
博士はそれをいちいち指摘したあげく、
「ええい、どなたも作法がなっておらぬ。私は有名な学者であるぞ。そんなことすらご存じないようだが、それでよく内裏でのお仕事ができるものだ」
と癇癪を起こす。
どなたも我慢ができず、お笑いになる。
すると博士はますます怒って、
「静かに、静かになさい。なんという無礼だ。騒がしい人には退出してもらいますぞ」
と叱りつける。
まるで大学寮の教室のようね。
博士というものをあまり見たことがない方たちは、興味深そうにご覧になっている。
一方、大学寮出身の貴族たちは、懐かしく、なんとなくうれしくなっていらっしゃる。
<源氏の君が若君に学問をお勧めになったのは、ご立派ですばらしいことだ>
と心底感心していらっしゃるの。
源氏の君は、
「私のような作法を知らない者が出ていっては、叱られてしまうだろうから」
とおっしゃって、ついたての後ろに隠れていらっしゃる。
席が足りなくて参列できなかった学生がいるとお聞きになると、少し離れたところへお集めになって、お土産をお与えになった。
花散里の君がお住まいのところよ。
貴族たちにとってはめずらしい儀式だから、我も我もと参列なさる。
大学寮の先生である博士たちは、参列者よりも身分の低い人たちだから、さぞかし緊張したでしょうね。
遠慮しがちな博士たちに、源氏の君は父親らしくおっしゃる。
「私の息子だからといって気を遣わないでください。他の学生たちと同じように、厳しく接してほしい」
そうおっしゃられても困るのだけれど、ご命令なので神妙な顔で儀式を進める。
借り物のぶかぶかな着物を着ていることは気にしていないみたい。
表情も声もおおげさで、初めて見るような儀式だったわ。
お若い貴族たちは思わず笑ってしまわれる。
儀式では、貴族が博士たちにお酒を勧めることになっている。
博士というのは作法にうるさいから、落ち着いてお酌をできそうな人があらかじめ選ばれていた。
大宮様のご子息である右大将様もそのおひとりよ。
若君の伯父として、「これから甥をよろしく」とお酌をなさる。
でも、学者との宴会なんて慣れていらっしゃらないから、お酌をする手つきがたどたどしい。
博士はそれをいちいち指摘したあげく、
「ええい、どなたも作法がなっておらぬ。私は有名な学者であるぞ。そんなことすらご存じないようだが、それでよく内裏でのお仕事ができるものだ」
と癇癪を起こす。
どなたも我慢ができず、お笑いになる。
すると博士はますます怒って、
「静かに、静かになさい。なんという無礼だ。騒がしい人には退出してもらいますぞ」
と叱りつける。
まるで大学寮の教室のようね。
博士というものをあまり見たことがない方たちは、興味深そうにご覧になっている。
一方、大学寮出身の貴族たちは、懐かしく、なんとなくうれしくなっていらっしゃる。
<源氏の君が若君に学問をお勧めになったのは、ご立派ですばらしいことだ>
と心底感心していらっしゃるの。
源氏の君は、
「私のような作法を知らない者が出ていっては、叱られてしまうだろうから」
とおっしゃって、ついたての後ろに隠れていらっしゃる。
席が足りなくて参列できなかった学生がいるとお聞きになると、少し離れたところへお集めになって、お土産をお与えになった。



