野いちご源氏物語 二一 乙女(おとめ)

四つのお屋敷は、渡り廊下でつながっている。
中宮(ちゅうぐう)様と(むらさき)(うえ)花散里(はなちるさと)(きみ)は、それぞれ穏やかな交流をしていらっしゃる。
女童(めのわらわ)などが、お手紙のやりとりのためによく()()しているわ。

季節は秋だから、紅葉(もみじ)が色づいて、中宮様のお庭は言葉では言い表せないほどの美しさ。
少し強い風が吹いている夕暮れ時、中宮様は紫の上に花や紅葉をお届けになった。
美しい箱の(ふた)をお(ぼん)がわりにして、いろとりどりに()せてあるの。
落ち着いた色合いの着物を着た女童が、慣れた様子で渡り廊下を歩いていく。
普段は内裏(だいり)で中宮様にお仕えしている子だから、振舞いがさすがに立派だったわ。

中宮様からのお手紙には、
「そちらは春を待っていらっしゃることでしょう。こちらの秋の美しさをお(すそ)分けいたします」
とある。
紫の上のお屋敷の方は、主に春の植物が植えられていることをご存じで、からかっていらっしゃるのね。

紫の上はお返事で、
「紅葉は風に散ってしまいますが、春はこんなふうにどっしりと根を張っておりますよ」
と言い返される。
中宮様から届いたお盆に(こけ)()いてから、岩に見立てた石や作り物の松を置いてお届けになった。
<見事なお返しをお作りになったものだ>
と源氏の君は感心なさる。
女房(にょうぼう)たちも周りに集まって楽しそうに拝見しているの。

源氏の君は、
「中宮様は得意気(とくいげ)でいらっしゃいますが、春になったらこちらの本気をお見せいたしましょう。紅葉をあまり悪く言っては秋の神様がお怒りになりますからね。桜さえ咲けばこちらも強気な態度に出られます」
と若々しく勝負なさるおつもりでいらっしゃる。
こんなふうに、風流(ふうりゅう)で優雅なお付き合いをなさっている。