野いちご源氏物語 二一 乙女(おとめ)

「引越しは一斉(いっせい)に」
源氏(げんじ)(きみ)はおっしゃったけれど、大騒ぎになってもいけないからと、中宮(ちゅうぐう)様は少し延期なさる。
(むらさき)(うえ)のお行列には身分の高い貴族だけがお(とも)をしたわ。
世間が悪く言うかもしれないと源氏の君は気にして、お供をやたらと増やすことはなさらなかったの。
花散里(はなちるさと)(きみ)も紫の上と同じ日に引っ越しなさった。
こちらのお行列のお供には若君(わかぎみ)が加わっておられる。
紫の上と差がつかないように、源氏の君は立派に扱っていらっしゃったわ。

五、六日してから、中宮様が内裏(だいり)から(さと)(がえ)りなさった。
中宮様が内裏の外へお出かけなさるということで、どれだけ(ひか)えめになさっても儀式は多い。
この中宮様は、亡き母君(ははぎみ)のご不運など(うそ)のように幸運を手に入れられた。
でも、ただ運がよかったというわけではいらっしゃらない。
人柄(ひとがら)がおくゆかしくて重々(おもおも)しい方だから、自然と世間から尊敬されていらっしゃるの。