野いちご源氏物語 二一 乙女(おとめ)

源氏(げんじ)(きみ)は今、大きな計画をなさっている。
亡き六条御息所(ろくじょうのみやすんどころ)のお屋敷の周りを広くお買取りになって、御息所(みやすんどころ)のお屋敷も含めてひとつの大きなご自宅にしようとしていらっしゃるの。
四つの立派なお屋敷をお造りになって、それぞれのお屋敷を渡り廊下でおつなげになるご予定よ。
あちこちにお住まいの女君(おんなぎみ)をお集めになれば、源氏の君は気軽にご訪問なさることができるというわけ。

建設工事を急がせていらっしゃるのは、(むらさき)(うえ)父宮(ちちみや)であられる式部卿(しきぶきょう)(みや)様のため。
来年五十歳になられる祝賀(しゅくが)(かい)を、新築のお屋敷で行ってさしあげたいとお思いなの。
そうとなれば、会場以外にも準備なさらないといけないことは山ほどある。
お食事や、余興(よきょう)の音楽会や(まい)手配(てはい)とか、祝賀会の一環(いっかん)として行われる仏教(ぶっきょう)行事で、僧侶(そうりょ)や参列者に与えるご褒美(ほうび)の用意とかね。
二条(にじょう)(ひがし)(いん)花散里(はなちるさと)(きみ)も、源氏の君に頼まれて準備をお手伝いなさった。
今や紫の上と花散里の君も信頼関係で結ばれていらっしゃるの。

大がかりな準備がされているということをお聞きになった式部卿の宮様は、感激していらっしゃる。
「源氏の君は立派で公平な方だと皆が言うが、それでも私にはきつく当たられることが多かった。須磨(すま)へ行かれたとき、ふっつりと(えん)を切ってしまったことを根に持っていらっしゃるのだろう。しかし、たくさんの女君たちのなかで、私の姫が特別に大切にされていることは(ほこ)らしい。そのおこぼれが私のところまで回ってこなくても仕方がないと思っていたが、五十歳の祝賀会をしてくださるとは。この年になって、思いもよらなかった幸せだ」

宮様がおよろこびになっているのを、ご正妻(せいさい)憎々(にくにく)しくお思いなの。
<私の生んだ姫が女御(にょうご)になるとき、何もしてくださらないどころかご養女(ようじょ)斎宮(さいぐう)の女御様をぶつけて、しかもそちらを中宮(ちゅうぐう)にまでしてしまわれたではないか>
(うら)んでいらっしゃる。