貴族のお子が元服して内裏で働きはじめるとき、「位階」というものが帝から与えられるの。
源氏の君は若君の位階を四位にしていただこうと思っていらっしゃった。
ふつうなら五位だけれど、今の父君のお力をもってすれば、四位を与えられてもおかしくない。
世間もそう思っていたわ。
<お願いすれば四位をいただけるだろう。しかし、あれはまだ十二歳の子どもだ。いくら私の思いどおりにできるからといって、世間の予想どおりにしてしまってよいものだろうか。いかにも親馬鹿ではないか>
とお考え直しになって、なんと六位になさった。
六位の人が内裏へ上がるときには、浅葱色という水色のお着物を着るの。
大宮様は、かわいい孫君が浅葱色のお着物をお召しになることをとてもつらく思われた。
源氏の君にお会いになって愚痴をこぼされると、源氏の君はおっしゃる。
「私に考えがございまして、今から二、三年は大学寮で学問をさせたいと存じます。そのために早めに元服させただけでございますから、位階はひととおりの学問がすんで、内裏でお役に立つようになってから自然と上がっていけばよいと考えております。
私は内裏で育ちましたから、世間知らずな子どもでございました。一日中亡き上皇様のおそばにおりまして、学問も少し教えていただいたのです。恐れ多い教えではございましたが、学問全体の基礎を厳しく教えていただいたわけではありませんので、そのあとに苦労することも多うございました。学問だけではなく、琴や笛の音色にも、私の未熟さが表れてしまうのです。
父親の私がこうでございますから、息子を甘やかせば私より出来の悪い人間になるでしょう。そうして子孫がどんどんひどくなっていく、それは避けたいのです。私の子として四位をいただき、幼いうちから貴族社会でちやほやされてしまったら、苦しい学問などしようとは思わないはずです。遊びにばかり熱心になり、思いのまま位階や役職をいただく。それでもご機嫌をとって従おうとする人がいるうちはそれらしく立派に見えますが、時代の流れが変わったとき、あるいは親が亡くなったときにどうなるでしょうか。手のひら返しをされて、誰からも見向きもされなくなりましょう。
やはり、時代の流れに翻弄されることなく、内裏で力を発揮しつづけるには、学問が必要です。今は六位という頼りない位階ですが、将来大臣になる心構えを大学寮で学んでおけば、私が死んだあとも安心でございます。私が生きておりますうちは、貧乏学生などと馬鹿にする者はいないと存じますから、大宮様も長い目でご覧くださいませ」
大宮様は、
「そのように深くお考えなのは分かりました。しかし、若君がしょんぼりしていらっしゃるのですよ。右大将などが『六位だなんてあまりにもおかしい』と申しますから、幼心に悔しく思っておられるようなのです。右大将の子どもたちは、もっと上の位階をいただいていますでしょう。若君は内心、『いとこたちよりも自分の方が生まれがよい』と自信をもっておられたはずですから、ご自分が浅葱色なのがつらくていらっしゃる。そのご様子を見ていると、私まで苦しくなってしまうのです」
と切々とおっしゃるけれど、源氏の君はお笑いになる。
「一人前に恨んでいるのですね。まだ考えが子どもで、かわいらしいことだ」
父親として、いじらしい若君を愛しくお思いになるの。
「大学寮で学問をして、少し物事が分かるようになれば、自然とその恨みは消えましょう」
とおっしゃる。
源氏の君は若君の位階を四位にしていただこうと思っていらっしゃった。
ふつうなら五位だけれど、今の父君のお力をもってすれば、四位を与えられてもおかしくない。
世間もそう思っていたわ。
<お願いすれば四位をいただけるだろう。しかし、あれはまだ十二歳の子どもだ。いくら私の思いどおりにできるからといって、世間の予想どおりにしてしまってよいものだろうか。いかにも親馬鹿ではないか>
とお考え直しになって、なんと六位になさった。
六位の人が内裏へ上がるときには、浅葱色という水色のお着物を着るの。
大宮様は、かわいい孫君が浅葱色のお着物をお召しになることをとてもつらく思われた。
源氏の君にお会いになって愚痴をこぼされると、源氏の君はおっしゃる。
「私に考えがございまして、今から二、三年は大学寮で学問をさせたいと存じます。そのために早めに元服させただけでございますから、位階はひととおりの学問がすんで、内裏でお役に立つようになってから自然と上がっていけばよいと考えております。
私は内裏で育ちましたから、世間知らずな子どもでございました。一日中亡き上皇様のおそばにおりまして、学問も少し教えていただいたのです。恐れ多い教えではございましたが、学問全体の基礎を厳しく教えていただいたわけではありませんので、そのあとに苦労することも多うございました。学問だけではなく、琴や笛の音色にも、私の未熟さが表れてしまうのです。
父親の私がこうでございますから、息子を甘やかせば私より出来の悪い人間になるでしょう。そうして子孫がどんどんひどくなっていく、それは避けたいのです。私の子として四位をいただき、幼いうちから貴族社会でちやほやされてしまったら、苦しい学問などしようとは思わないはずです。遊びにばかり熱心になり、思いのまま位階や役職をいただく。それでもご機嫌をとって従おうとする人がいるうちはそれらしく立派に見えますが、時代の流れが変わったとき、あるいは親が亡くなったときにどうなるでしょうか。手のひら返しをされて、誰からも見向きもされなくなりましょう。
やはり、時代の流れに翻弄されることなく、内裏で力を発揮しつづけるには、学問が必要です。今は六位という頼りない位階ですが、将来大臣になる心構えを大学寮で学んでおけば、私が死んだあとも安心でございます。私が生きておりますうちは、貧乏学生などと馬鹿にする者はいないと存じますから、大宮様も長い目でご覧くださいませ」
大宮様は、
「そのように深くお考えなのは分かりました。しかし、若君がしょんぼりしていらっしゃるのですよ。右大将などが『六位だなんてあまりにもおかしい』と申しますから、幼心に悔しく思っておられるようなのです。右大将の子どもたちは、もっと上の位階をいただいていますでしょう。若君は内心、『いとこたちよりも自分の方が生まれがよい』と自信をもっておられたはずですから、ご自分が浅葱色なのがつらくていらっしゃる。そのご様子を見ていると、私まで苦しくなってしまうのです」
と切々とおっしゃるけれど、源氏の君はお笑いになる。
「一人前に恨んでいるのですね。まだ考えが子どもで、かわいらしいことだ」
父親として、いじらしい若君を愛しくお思いになるの。
「大学寮で学問をして、少し物事が分かるようになれば、自然とその恨みは消えましょう」
とおっしゃる。



