年末、大宮様は若君のお正月用のお着物を準備なさる。
姫君が内大臣様のお屋敷に引き取られてしまったから、今年は若君の分だけにかかりきりでいらっしゃるの。
そうして美しく仕立てられた何組ものお着物を、若君にお見せになった。
でも若君はうれしくなさそうでいらっしゃる。
「元日は内裏へ上がるつもりはありませんから、急いでお仕立ていただく必要はございませんでした」
なんておっしゃった。
「どうしてそんなことをおっしゃるのです。年老いて力が出ない人の言うことですよ」
と大宮様がお責めになると、
「年老いてはいませんが力が出ません」
とぼそりと言って、涙ぐんでいらっしゃるの。
＜姫が恋しいあまり、何もする気にならないのだろう＞
と大宮様はお思いになる。
もらい泣きしそうになりながらも、厳しくおっしゃった。
「男の子というものは、身分にかかわらず、きりりとしていなければなりませんよ。めそめそなさいますな。姫とのことをそんなに思いつめていたら、気がおかしくなってしまいます」
「いえ、そうではないのです」
若君はたくさんの美しいお着物をちらりとご覧になる。
六位の人が内裏で着る、水色の着物。
「位階が上がるまでのしばらくの我慢と分かってはいますが、六位だと人から馬鹿にされるので、それで内裏に上がりたくないのです。こちらのおじい様がお元気でいらっしゃったら、冗談でもそんなことを言う人はいなかったでしょうに。父君は頼りになりません。私にご冷淡で、遠ざけていらっしゃるのです。二条の院に上がることもお許しくださいませんから、東の院にたまにお越しになったときしかお話しできないくらいです。東の院で母親代わりをしてくださる人はお優しい方ですが、やはり本当の母君がいてくださったら頼ることができたのにと思ってしまいます」
とお泣きになる。
小さなお肩が震えるのをご覧になると、大宮様は今度こそもらい泣きしてしまわれる。
「幼いころに母親を失った人というのは、どんな身分であってもつらいものですね。それでも大人になれば、人から軽んじられることはなくなるはずです。気にしていないように見せていらっしゃい。本当に、おじい様にはもう少し長生きしていただきたかったこと。源氏の君が同じようにあなたを守ってくださると思っておりましたけれど、思うようにはいかないのですね。
何かにつけて長生きしたことが恨めしい。内大臣は私をお憎みになるし、あなたのような小さな人まで世間は意地悪だと嘆くのだから」
姫君が内大臣様のお屋敷に引き取られてしまったから、今年は若君の分だけにかかりきりでいらっしゃるの。
そうして美しく仕立てられた何組ものお着物を、若君にお見せになった。
でも若君はうれしくなさそうでいらっしゃる。
「元日は内裏へ上がるつもりはありませんから、急いでお仕立ていただく必要はございませんでした」
なんておっしゃった。
「どうしてそんなことをおっしゃるのです。年老いて力が出ない人の言うことですよ」
と大宮様がお責めになると、
「年老いてはいませんが力が出ません」
とぼそりと言って、涙ぐんでいらっしゃるの。
＜姫が恋しいあまり、何もする気にならないのだろう＞
と大宮様はお思いになる。
もらい泣きしそうになりながらも、厳しくおっしゃった。
「男の子というものは、身分にかかわらず、きりりとしていなければなりませんよ。めそめそなさいますな。姫とのことをそんなに思いつめていたら、気がおかしくなってしまいます」
「いえ、そうではないのです」
若君はたくさんの美しいお着物をちらりとご覧になる。
六位の人が内裏で着る、水色の着物。
「位階が上がるまでのしばらくの我慢と分かってはいますが、六位だと人から馬鹿にされるので、それで内裏に上がりたくないのです。こちらのおじい様がお元気でいらっしゃったら、冗談でもそんなことを言う人はいなかったでしょうに。父君は頼りになりません。私にご冷淡で、遠ざけていらっしゃるのです。二条の院に上がることもお許しくださいませんから、東の院にたまにお越しになったときしかお話しできないくらいです。東の院で母親代わりをしてくださる人はお優しい方ですが、やはり本当の母君がいてくださったら頼ることができたのにと思ってしまいます」
とお泣きになる。
小さなお肩が震えるのをご覧になると、大宮様は今度こそもらい泣きしてしまわれる。
「幼いころに母親を失った人というのは、どんな身分であってもつらいものですね。それでも大人になれば、人から軽んじられることはなくなるはずです。気にしていないように見せていらっしゃい。本当に、おじい様にはもう少し長生きしていただきたかったこと。源氏の君が同じようにあなたを守ってくださると思っておりましたけれど、思うようにはいかないのですね。
何かにつけて長生きしたことが恨めしい。内大臣は私をお憎みになるし、あなたのような小さな人まで世間は意地悪だと嘆くのだから」
