野いちご源氏物語 二一 乙女(おとめ)

若君(わかぎみ)花散里(はなちるさと)(きみ)のお姿をはっきり見たことはないけれど、あまり美人ではいらっしゃらないことは(さっ)しておられるの。
父君(ちちぎみ)はこのような女性も大切になさっているのだ。それに比べて私は、雲居(くもい)(かり)の外見が忘れられず恋しがっている。あまりに表面的だ。もっと内面の優れた、この方のようなやさしい女性に恋をして妻とするべきかもしれない。しかし、顔を見てもつまらないような女性は嫌だ。父君はこの方とお会いになるとき、いつもさりげなくついたてを挟まれる。外見も内面もよく理解なさった上で、いつまでも愛せる方法をお考えになったのだろう。たしかにそれだけの価値のある方ではいらっしゃるけれど>

若君はこれまで美しい女性しかご覧になったことがない。
雲居の雁はかわいらしいし、大宮(おおみや)様は(あま)になっていらっしゃるけれどお美しい。
おそばの女房(にょうぼう)たちも美人がそろっていたから、女性というのは美しいものだと思い込んでいらっしゃった。
それで花散里の君に少し失礼なことをお考えになったのでしょうね。