野いちご源氏物語 二一 乙女(おとめ)

それ以来若君(わかぎみ)からのお手紙はない。
やはり雲居(くもい)(かり)が恋しくて、そちらのことばかり考えていらっしゃるの。
<どうにかして会いたい>
とお思いになるけれど、姫君(ひめぎみ)内大臣(ないだいじん)様のお屋敷に引き取られてしまったのだから、お会いになれるはずもない。
姫君がいらっしゃらなくなった大宮(おおみや)様のお屋敷へ行く気にもおなりになれない。
行けば、姫君との思い出に苦しくなってしまうもの。
結局、二条(にじょう)(ひがし)(いん)に引きこもっていらっしゃる。

源氏(げんじ)(きみ)は東の院の花散里(はなちるさと)(きみ)に、若君の後見(こうけん)役をお願いなさった。
「大宮様はご高齢ですから、お亡くなりになった後、あなたに後見していただきたいのです。そのために今のうちから世話をしてやってください」
とおっしゃると、花散里の君は素直な方でいらっしゃるから、若君を大切にお世話なさる。