野いちご源氏物語 二一 乙女(おとめ)

舞姫(まいひめ)と弟が若君(わかぎみ)のお手紙に見入っていると、父の惟光(これみつ)がふらりと現れた。
ふたりはびっくりして、とっさに隠すこともできない。
「その手紙は何だ」
と取り上げられて、舞姫は顔を赤くしている。

「男からの手紙など届けてはならぬと言ってあるだろう」
と惟光が(しか)りつけるので、弟は逃げ出そうとする。
それを止めて、
「誰からだ」
と聞くと、
源氏(げんじ)(きみ)の若君です」
と答える。

惟光は少し驚いたあと、満面(まんめん)()みを浮かべて言った。
「なんというすばらしいお手紙だろう。そなたたちは若君と同じくらいの年だというのに、まだまだ子どもっぽくて困る」
などと(じょう)機嫌(きげん)に言って、舞姫の母にもお手紙を見せた。
「若君が娘を気に入ってくださっているなら、内裏(だいり)で働かせるよりも若君に差し上げた方がよいと思う。父君(ちちぎみ)の源氏の君は、一度愛された女性はずっと大切になさる頼もしい方だ。若君もきっと同じでいらっしゃるだろう。もし娘が姫君(ひめぎみ)を生んだら、私は明石(あかし)入道(にゅうどう)のようになれるかもしれない」
と浮かれているのを、妻はあきれて見ている。
娘が女官(にょかん)として内裏に上がる日はどんどん近づいているのだもの。
急いで準備をしなければならないから、夫の空想話に付き合っている暇はないの。