野いちご源氏物語 二一 乙女(おとめ)

毎年十一月には、内裏(だいり)の行事で舞姫(まいひめ)が特別な(まい)披露(ひろう)するの。
舞姫は貴族の姫君(ひめぎみ)などがおなりになるのだけれど、源氏(げんじ)(きみ)は今年、舞姫を出す当番のひとりでいらっしゃる。
源氏の君のような上級貴族の場合は、ご自身の姫君ではなく家来(けらい)の娘を代わりにお出しになるのがふつうよ。
源氏の君は惟光(これみつ)に、娘を舞姫にするようお命じになった。

「今年の舞姫は、行事が終わったあと内裏で働くように」
という(みかど)からのご指示が出ているから、他の当番の貴族たちは自慢の姫君をお出しになる。
惟光の娘も、美人だと有名な少女なの。

でも、いくら舞姫とはいえ、娘を人前(ひとまえ)に出すことを嫌がる親は多い。
惟光も愛娘(まなむすめ)にそんなことをさせるのは気が引けたけれど、
大納言(だいなごん)様でさえ姫君をお出しになるのだから」
と周囲から言われて承知したわ。
<いずれは娘を内裏で働かせようと思っていたから、ちょうどよい機会かもしれない>
と思い直したみたい。
行事の日まで、家でみっちりと舞の稽古(けいこ)をさせていた。

舞姫のお(とも)の着物は、二条(にじょう)(ひがし)(いん)にお住まいの花散里(はなちるさと)(きみ)に準備をお任せになった。
源氏の君が後見(こうけん)なさっている中宮(ちゅうぐう)様からも、お供に着せる着物が届いたわ。

慌ただしく準備が進んでいく。
源氏の君は、舞姫のお供をする者を二条の院や東の院からお探しになる。
御前(ごぜん)を歩かせて、姿が美しく行儀(ぎょうぎ)のよい子をお選びになった。
選ばれた子たちはとてもうれしそうにしている。
でも、選ばれなかった子たちも十分お役目(やくめ)が果たせそうなのよ。
普段(むらさき)(うえ)や花散里の君にお仕えしている子たちだもの。
「他の舞姫のお供も私のところから出したいくらいだ」
と源氏の君はお笑いになる。