野いちご源氏物語 二一 乙女(おとめ)

若君(わかぎみ)は、おひとりでその場にいつづけるのはつらくて、ご自分のお部屋に行かれた。
お胸が苦しくて横になっていらっしゃると、姫君(ひめぎみ)の乗り物がこっそりとお屋敷を出ていく音がするの。
大宮(おおみや)様は若君を気遣って、
「こちらへいらっしゃい」
女房(にょうぼう)から伝えさせなさったけれど、若君は寝たふりをなさっている。

涙が止まらず、一晩中(なげ)いて早朝にお屋敷をお出になる。
<朝になったらまた大宮様から呼ばれて、きっと離してくださらないだろう。女房たちに泣きはらした顔を見られるのも嫌だ。人目(ひとめ)が気にならない(ひがし)(いん)へ帰ろう>
とお思いになって、急いでご出発なさったの。
道に(しも)が降りている。
空は曇ってまだ暗い。
若君は心細く悩みつづけながら、
「寒々しい早朝に私の涙が雨のように降っている」
とつぶやかれた。