若君はこのやりとりを物陰から覗いていらっしゃった。
女房たちが気づいていることなど構わず、姫君を目に焼きつけるようにお見つめになる。
そうしながら心細くて泣いていらっしゃるの。
乳母からもそのご様子が見える。
お気の毒に思った乳母は、大宮様にはうまく申し上げて、夕方に若君と姫君をお会わせした。
内大臣様が間もなく姫君のお迎えにいらっしゃるはずなので、屋敷中が慌ただしい。
ひさしぶりに直接お会いになったおふたりは、気まずさと苦しさで、何も言えずに泣いていらっしゃる。
やっと若君がおっしゃる。
「内大臣様のお考えがつらくて、いっそもうあなたを諦めてしまおうと頭では考えるのだけれど、恋しくて恋しくてどうしようもないのです。こちらで一緒に暮らしていたころ、もっと仲良くしておけばよかった」
少年らしく打ちひしがれていらっしゃるのがお気の毒で、
「私もそう思います」
と姫君は弱々しくお答えになる。
若君が、
「私を恋しいと思ってくれますか」
とお尋ねになると、まだまだ幼いご様子で少しお頷きになった。
内裏からお下がりになった内大臣様のお行列が、こちらへ近づいてきているみたい。
お供の大きな声が聞こえてくる。
姫君は震えはじめてしまわれたの。
若君は姫君を抱きしめて、
「どこにも行かせない」
とつぶやかれる。
姫君の乳母が、姫君を探してやって来た。
ついたての向こうからちらりと覗いて状況を察したわ。
<なんと困ったこと。大宮様のお許しなしに、こんなふうにお会いにはなれないはず。大宮様はご存じないどころか、やはりひそかにおふたりを応援していらっしゃったのだ>
とうんざりする。
乳母は聞こえよがしに言う。
「若君と姫君のご関係はなかったことにしなければ。内大臣様はお怒りだし、再婚なさった母君やその夫君だってどうお思いになるか。いくらなんでも姫君が六位の人とご結婚なさるなんてありえない」
<私の位階が低いことを馬鹿にしているのだ>
若君は傷ついてしまわれる。
「お聞きになりましたか。あなたを思う恋心は、位階などでは量れないはずなのに」
とおっしゃると、姫君は、
「悲しいことばかりの人生です。私たちはこの先どうなってしまうのでしょうか」
とお返事なさる。
そのお返事が言い終わるかどうかのところで、内大臣様がお屋敷にお入りになった。
もうどうしようもなくて、姫君はご自分のお部屋にお戻りになる。
女房たちが気づいていることなど構わず、姫君を目に焼きつけるようにお見つめになる。
そうしながら心細くて泣いていらっしゃるの。
乳母からもそのご様子が見える。
お気の毒に思った乳母は、大宮様にはうまく申し上げて、夕方に若君と姫君をお会わせした。
内大臣様が間もなく姫君のお迎えにいらっしゃるはずなので、屋敷中が慌ただしい。
ひさしぶりに直接お会いになったおふたりは、気まずさと苦しさで、何も言えずに泣いていらっしゃる。
やっと若君がおっしゃる。
「内大臣様のお考えがつらくて、いっそもうあなたを諦めてしまおうと頭では考えるのだけれど、恋しくて恋しくてどうしようもないのです。こちらで一緒に暮らしていたころ、もっと仲良くしておけばよかった」
少年らしく打ちひしがれていらっしゃるのがお気の毒で、
「私もそう思います」
と姫君は弱々しくお答えになる。
若君が、
「私を恋しいと思ってくれますか」
とお尋ねになると、まだまだ幼いご様子で少しお頷きになった。
内裏からお下がりになった内大臣様のお行列が、こちらへ近づいてきているみたい。
お供の大きな声が聞こえてくる。
姫君は震えはじめてしまわれたの。
若君は姫君を抱きしめて、
「どこにも行かせない」
とつぶやかれる。
姫君の乳母が、姫君を探してやって来た。
ついたての向こうからちらりと覗いて状況を察したわ。
<なんと困ったこと。大宮様のお許しなしに、こんなふうにお会いにはなれないはず。大宮様はご存じないどころか、やはりひそかにおふたりを応援していらっしゃったのだ>
とうんざりする。
乳母は聞こえよがしに言う。
「若君と姫君のご関係はなかったことにしなければ。内大臣様はお怒りだし、再婚なさった母君やその夫君だってどうお思いになるか。いくらなんでも姫君が六位の人とご結婚なさるなんてありえない」
<私の位階が低いことを馬鹿にしているのだ>
若君は傷ついてしまわれる。
「お聞きになりましたか。あなたを思う恋心は、位階などでは量れないはずなのに」
とおっしゃると、姫君は、
「悲しいことばかりの人生です。私たちはこの先どうなってしまうのでしょうか」
とお返事なさる。
そのお返事が言い終わるかどうかのところで、内大臣様がお屋敷にお入りになった。
もうどうしようもなくて、姫君はご自分のお部屋にお戻りになる。



